取水所-3
(油彩、F6)

よく晴れた日の夕暮れ時、風の方向が入れ替わり、凪いだ時間帯になる。
ペンと色鉛筆で描いているうち、これは油彩の方がここの空気感が出るように思った。
週末天気が崩れ、自宅でペン画から油彩に移してみることにした。
ペン画の印象をそのままに油彩へ写したところで、
このまま描き進めていいかどうか、迷う。

右の堰の上に腰掛け、終日水面を見つめている職員の人がいた。
目の前の水際に差した木の枝を時間をおいて見にくる。
どうも水位を調べているようだ。
仕事をしているとはいえ、堰をぬける水の流れの音、
ときおり跳ねる魚のしぶき、
水面を滑るように滑空するシラサギや鵜の飛翔。
時間が止まったような風景というより空間を見つめて過ごす勤務がうらやましい。
日除けと辛抱が必要とはいえ、川面を終日目視するというアナログな仕事が
都の公の仕事として存在するというのが面白い。
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Tag:Landscape Paysage 風景画

川沿いの町
(ペンとインク)

主に近所を描いているけれど、たまに連休などがあると遠くへ行ったりもする。
遠くといえば、ときどきは海外の街を描いてみたい衝動にもかられる。
仕事場の相棒とかつて出かけた海外への旅のことを振り返り、
「今だったらとても行けなかったですよねー」と言っていたが、
本当にそうだったろうか。
よその国を見たい、まだ知らない国を見て見たいという若い好奇心が
それでも警戒心にまさっていたような気がする。
しかしもう海外へ出てゆく機会はないだろうなぁと思う。
もし今行けたとしたら、絵を描く以外に最近ペンで描いているので、
古い文房具屋に入って知らないメーカーのインクを漁ってみたい。
その土地をその土地で買ったインクでデッサンしてみたい。
そんなことを想像するのもなかなか楽しい。
多摩川調布取水所
(ガッシュ)

多摩川は先月、鮎の遡上シーズンを迎えた。
6月に入っても調布取水所のあたりにはたくさん泳いでいるらしく、
シラサギが河床をつついている様子があちらこちらで見える。
浅瀬でサギの接近に驚く鮎の群れが、さざ波のように震えている。
鮎をつつく様子を近くで見ていると、なるほどうまそうだ。
今まで川魚はニジマス、イワナ、ワカサギ、ヤマメ、鯉などを食べたことがある。
イワナもマスも美味いが、ヤマメが一番だった。
イワナは刺身や焼き以外にも骨酒、骨せんべいにできて、残すところがない。
信州の山の中で釣って食べた味は忘れられない。

1970年頃までは、この画の右側に少し見えている堰(調布取水所)は
都民の飲用の取水所として現役だったようだ。
川の汚染がひどくなって以後、取水は工業用水として使われている。
その後川の水は浄化が進み、今では百万尾単位で鮎が遡上するほどになった。
画を描いている時にも、堰の向こうでは若者が水遊び、というより泳いでいる。
遊泳禁止のはずだけれど、そのあたりは流れが遅く、浅い。

右に見える堰は昭和10年に作られたそうだけれど、
画の白い取水所の建物も同じ頃作られたのだろうか。
通りかかるといつも西日を受けて、
真っ白、あるいはオレンジの影を水面に落している。
この日、イーゼルを立てた頃にはやや風があり、
水面にちりめんじわが広がって白くなっていた。
その水面わずかの上空を鵜が川上に向かって飛んでいった。
日暮れに近づくに従って風は止み、水面には建物の鏡像が現れた。
まだ風は気持ちよく、蚊も出ていない川岸の風景。
月初めに千葉へ遠出した日が早くも懐かしい。
ほぼ同じ方向に向かって、川崎側と対岸の東京側から描く。

川沿いの建物
(ガッシュ)


白い建物
(ペン、インク)


最近彩色部分に使っているのは下の写真のブルーインク(筆記用)。
雑貨屋で6年ほど前に購入したもので、メーカー不詳。
水で溶くと顔料の比重の違いから来るのか、
薄いところからシアン系、パープル系、コバルトブルー系へと色の変化がある。
(背後の文字はゴッホの書簡で、このインクとは関係ありません)

20170601_ink.jpg
鉄橋
(ペン、インク)

今日は珍しいことに、3回ほど話しかけられた。
画材のことを毎回聞かれる。
ペンで描いているのは珍しいようだ。
また、
「何日か前もこのあたりで描いておられましたね」ともいわれるが
それは別人だ。
ほかにも多摩川で描いている人がいるらしいけれど、私は会ったことがない。
みなさん好奇心おう盛で、なおかつおだやかな話し方をされる。
涼しい夕暮れ時に夫婦で、あるいはお年寄りが杖突きつつ川辺に散歩に出て、
絵を描いている人物に声をかける。
同じ東京に、そのようなおだやかな暮らしがあるのかと、不思議な気がする。
話し方と声には、その顔や肩書き以上にその人となりを伝えるものだ。
顔も一目見れば、人格の半分くらいは想像はつく。
夕べのニュースを騒がした二人の人物の顔を思い浮かべる。
「筋を通して、もうこれ以上理不尽な仕事をさせないで欲しい」
と直訴する官僚の元えらい人と
それを、彼は信用できない人物だから、話は聞かなくてよい、とする政治家と
はたしてTVの前の人たちはどちらを信用しただろうか。
不祥事の責任を取ったとはいえ、
あんな人を辞めさせたのか、惜しいことだと思う。

気温が30度近くまで上がったけれど川風があったので涼しく、
よく晴れていたけれど雲があったので描きよかった。
世のなかに、いやなことは何もないのだと錯覚しそうな
おだやかで静かな梅雨入り前の休みの午後。

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