夕方スケッチの帰りに涼みがてら、近所の図書館へ寄った。
しばらく雑誌のページを繰って帰ろうとしたとき、
出口付近にある処分本の棚に目がとまる。
借りる人が少ない古い書籍は、新刊に場所を譲るため処分されることがある。
これは欧米でも同じで、以前ネットで蒐集した海外の古い絵本も
手ごろな価格が付いていたものは「Public school library copy.」
「 exlibrary 」など、図書館落ちの標記があるものが多かった。
どこかのBlogで、処分本の中に長谷川利行の絶版書
「どんとせえ」を見つけたと書いていた人がいたけれど、
そんな幸運はめったにあることじゃないだろう。
ところが今日その棚に私は、舟越保武の「巨岩と花びら」を見つけた。
現在も発刊されている文庫ではあるが、古書店ではあまり見ない本だし、なにより名随筆だ。
とくに同郷で幼なじみでもある松本竣介との友情を綴った文章がすばらしい。

絵描きの文章というのは、小説家のそれより
文体、個性の差違がはっきりしているように思う。
文章を売る必要もなく、頼まれて書くだけだから人物がもろに出てくる。
私が好きなのはほかに中川一政、野見山暁治、
そしてしゃべったものを人が書き起こしたものだけれど熊谷守一のもの。
舟越保武はひと言で言えば率直・平易な文章だ。
松本竣介を偲んだ文章は若い日に死に別れた友人を想って痛切である。

夭折した長女の洋子ちゃんがとぼとぼと先を歩いているのに、やがて竣介が追いつく。
竣介は洋子ちゃんと手をつなぎ、時折肩車をして、
父と娘はキャッキャとはしゃぎながら歩いて行く。
二人が歩いている先に、少し早く亡くなった詩人の小熊秀雄が歩いている。
気取った歩き方をしているので、やがて二人は彼にも追いつく。
暗い冥途の道の三人連れが、そこだけ淡い光が当たっているように見える。
あじさい色のように、ほのかに明るい光の輪の中を歩いて行く、
この三人の後姿を想って私は悲しみを押さえたい。

そう綴った舟越保武そのひとも、今はその光の中にいる。
この文章を読むと、かつて生きていた人たちの長かったり短かった一生を想って
人の生というのは美しいものだなぁと想うのである。

巨岩と花びら
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