安房白間津灯台
(ガッシュ)

水丸さんは、鋭い観察眼と審美眼をもって
人の何気ない仕草や行動にポツリ、厳しい指摘を入れる。
電車で本を読んでいる人を見て、手にした本に貼られた図書館シールに目を留める。
「いい大人がよくあんな図書館シールが貼られた本を電車で読むな、と思う」
これは耳が痛い。
私が水丸さんの本を読んでいるのもほとんどが図書館で借りたもので、
シールもしっかり貼られている。
ちょっと言い訳をすれば、水丸さんの著書は多くが絶版で古書価格もかなり高い。
デビュー作の「青の時代」などお金を出しても入手困難な稀覯書だ。
私は再販ながら(初版は函入り)たまたま入手できた時はうれしかった。


陽が傾いてきたので、千倉港の先へ移動する。
水丸さんの自宅からは白間津港のほうが近かったと思う。
でも白間津港には寄らずに、そのすぐ先の「安房白間津灯台」へ向かう。
水丸さんの本に、海岸の岩の上に孤立するこの灯台の写真が掲載されていて
来たら必ずここを訪れたいと思っていたのだ。
日没まで時間もないことだし、着いてすぐここを描くことにした。
構図も掲載写真とほぼ同じだ。

さっきまで晴れていた空は、にわかにかき曇って今にも降り出しそうだ。
灯台は想像以上に寒々しい風景に建っており、潜水艦ハッチのような入口がある。
中はどうなっているのだろう。
テンバの六造が魚や貝を採ったのは、漁協の近いこのあたりの海だったかもしれない。
(六造は漫画の「青の時代」、小説短編集「荒れた海辺」などに出てくる流れ者)

水丸さんの住んだ家は母方の旧家で、
網元だったこともあって石垣のある大きな屋敷だったようだ。
建物はもう残ってはいないので探しようもないけれど、
その入口の門は高倉健のデビュー作のロケで使われことがあったという。
この広大な一枚岩のような海岸も、アクション向けの舞台ではある。

「春の海はまだつめたく
 波はブルースピネルのように青い
 風が吹くと
 色とりどりのセロハン紙が
 海面でめくれていく

 ぼくはこの海で育った
             (「荒れた海辺」より)

灯台は砕ける波頭を背景に、がっちりと打ち込まれた杭のように見えた。
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