「立入禁止」多摩川河川敷にて

 02, 2011 01:38
立入禁止

子供が生まれた時から今に至るまで
散歩がてら、よく多摩川へ来る。
河川敷を吹き渡る柔らかい風を受けて歩き、あるいは自転車でゆっくり走ると
いやなことなどすっかり忘れてしまえるような、近郊の住民憩いの場所である。
山や森の中へ出かけるのもいいけれど、
東京で小さな子どもを連れてでも気軽に行けるこの場所は貴重だ。
川に沿って数カ所にある運動場ではセガレ達も現在、
散歩からサッカーでの利用になったものの、相変わらずここへ来ている。

先日久しぶりに次男坊とここへ自転車でやってきた。
夕方までボールを蹴ったり釣りしているのを見たりして、
そろそろ帰ろうかという時、芝生の運動場の奥にある、
つまり川っぺりに茂っている藪に、立入禁止の柵が見えた。
それを見て私は6年ほど前にここで会った男性のことを思い出した。
男性はこの柵の奥の住人だった。
・・・・
住人と言ってもいわゆる不法占拠であり、
男性曰く、「乞食」であった。


長男がまだ6歳くらいだから6年くらい前の秋の日だったろうか、
休みの日にここへ遊びに来ていた時のこと、
走りまわって遊んでいるうちにこの藪の中へ入っていった。
そこは予想外にきれいに踏みしめられた通路が通っていて
中から藪を通して見る外側はさらに意外にも、
京都なんかの古い寺に通じる手入れされた竹藪のような、
清潔で美しいたたずまいだったのである。
藪の中にこんなに美しい景色があることに
まるでアリスの穴に落ちたような非日常感を突然味わった。

通路を中程まで行くと、やがてT字路にあたった。
奥はさらに深そうで、意外にも明るくなっているようだ。
しかし、
そこから先に入ってはいけないような、
もっと言えば、そこに誰か人がいそうな気がして
セガレの手を引いてそこから出てきた。
そこを出てきたところで、そこへ入ろうとする一人の男性に出くわした。
男性は工場の工員なんかが着る作業服を着ていたので、
私は多摩川の管理なんかの仕事のひとかと思った。
穏やかに話すその人となにか二言三言言葉を交わした後、
「この藪の奥はどうなっているんでしょうね、川に出れるんでしょうか」
と聞くと、変わらず穏やかに話す男性は
「この中は私のような行くところのない、乞食が住んでいるんですよ」という。
衣服に少しも汚れたところがなかったので、その言葉に私は不意を打たれた。

「ああ、そうですか」と言うよりほかなく、
藪に入っていく男性を見送った。


今、目の前にある立入禁止の柵は、あのときそこに入ってゆく男性を見送った
まさにその入り口だ。
男性はあのとき、ここに流れてきたばかりだったのだろう。
その後、あの清潔さは保てただろうか。
いや、台風の増水で避難勧告をされるときまでそこに住んでいたのだろうか。
すでに住人(?)がいなくなったその藪は、
あのとき子どもが遊んで入っていったような柔らかさはなく、
うっそうとしてひとを寄せ付けない雰囲気に満ちていた。

変な話を書くようだけれど、
多摩川で会ったその男性が、私はなぜだか今も忘れられないのである。
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COMMENT 2

Sun
2011.10.02
12:04

タブロウ #3h4yWL0g

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のまどさん、こんにちは。

おっしゃるようにこれは自分を含め、自分の家族にも起こりうることです。
今そこに落ち込もうとする人たちは
かつての高齢者でなはなく、となりにいた普通の若者です。
震災後はまったく報道やドキュメンタリーでは伝えなくなりましたが
ネットカフェに寝泊まりしながら派遣労働に向かう人たちは
ひとたび体調を崩せば簡単にここの住人になってしまいます。
10年前、20年前の日本はこうではなかった、
国が言う、消費税率を10%にすれば、今より社会は良くなるのでしょうか。
消費税のなかった時代は今よりひどかったとはとても言えないと思います。


大嫌いな「勝ち組」「負け組」という言葉があります。
勝った方はいい、負けた方はどうなるのか、
人より少し前に出たものだけが生き残り、自分とその家族だけが幸せになれる社会が
本当に幸せな社会であるはずはないと思います。
本当に優れた人物が国と企業を動かしていない、
選べる術も判断力も国民が持っていない、
日本の衰えた社会の本当の悲劇はそこにある気がします。

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Sun
2011.10.02
11:29

のまど #-

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人ごとでは無い、、。

現在経産省の官僚(元)の方が書いた本を読んでいます。

日本が背負ってる借金の額を聞くと暗澹たる気持ちになります。

一番の問題は既得利権にしがみつく管も民も含めた構造にあると思います。
その時だけの利益を追求するから健全な新陳代謝が阻害され社会の動脈硬化が重症の域まで達してると感じます。
これは悲観的でしょうか?

震災直後は略奪も起きない日本社会の姿は世界から称賛されましたが、現在は国民が声を上げない日本人の気質に懐疑的な意見も聞かれるようになってきました。

EUも日本以上に危機的状況だと聞きます、このままだと河川敷の生活も他人事では無い気がします。

公園からも河川敷からも排除された人たちは何処に行けばいいのでしょう?

帰国時は荒川河川敷を東京湾まで走る事があり、沢山のホームレスの方が住まわれてるのを知っています。
そこに絶対にたどり着り着かないと私には言えないと思います。

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