年始に師を訪ねて~ふたたび、師の壁ギャラリー~

 09, 2012 12:01
師の壁ギャラリー2012-1

今年も東京の師の牛島さんのところへ年始の挨拶がてら、窓ふきに出かけてきた。
老人、といっては失礼だけれど、年をとってきついのは掃除であり、
なかでも窓ふきは一番きつかろう、と思ってお節介の押しつけに伺い、
今年でもう3年目になる。
それまで長く疎遠になっていたものの、ふたたび訪ねるようになったのは
私が画を描き始めたのがきっかけだった。
ご自身で画を描いたりはしないが、すばらしい目を持っている。
家にいる時は(ほとんどいるが)本を読むかTVを見ている。
落語を含めたお笑い(最近レベルが下がったと嘆く)を含め何でも見るが
自然科学と美術、そしてとくに「なんでも鑑定団」を夫婦(結婚はしていない)で見るのが好きで、
美術工芸・骨董などの真贋判断で誤ったことがない。
判断基準は「作品の持つ緊張度」だというが、これにはちょっと驚く。
私が自分の描いた画を持って訪ねるのはこの「眼力」という計りにかけてもらうためでもある。
・・・・

かつて日本の村落では坊さんを住まわせ、生活のための労働をさせずにみんなで養っていた。
浮き世の雑事から解放させ、欲得から離れて生きているから正しい判断ができる、
そう考えて村のみんなで支え、迷った時に意見を請うた。
古人の知恵はすばらしく、坊さんもそれに正しく応えた。
以上は中川一政の随筆に書かれていたことだ。
私は養ってはいないものの、師はその坊さんのような存在だ。
70才になったが相変わらず頭脳明晰、いつどんなボールを投げてもこちらの胸に確かな返球が来る。

半年ぶりに訪ねた師の例の壁ギャラリーには(写真)、さらに数枚の新聞の切り抜きが重なっていた。
一番上にはモランディの画が、その下にはジャン・フォートリエの「人質」という作品が見える。
私はここでいつも師の感動の広がりを確認する。
知らない作家が出ていれば帰宅後に調べる。

窓ふきをしている最中には時間をつぶせるよう、いつも何冊かの画集を持参している。
今年はピカソのバラ色の時代の画集と、マルケの展覧会図録を持っていった。
師はあまり感動を口にしないが、マルケにはうなっていた。
セーヌを描いた画家なのに今までマルセイユの風景を2枚ほどしか見たことがなかったらしく
今回まとまった作品群を見て驚いたようだ。「これはいい、しみじみいいなぁおい」
私も大好きな画家だったので、とてもうれしかった。
(以前書いたマルケについての記事はこちら

最近師は、「史上すべての絵画の中からどれか一点おまえにやろう」
といわれたならばどの画を選ぶか、という夢想に熱中していたらしい。
ダビンチでもピカソでもレンブラントでもいい、一枚なら何を選ぶか。
坂本繁二郎の最晩年の静物画かポロック、はたまたモランディとも迷ったそうだが
考え抜いた一枚はデュフィだったそうで、これは自分でも意外だったそうだ。
照れくさそうに言った言葉は「軽いよな」
これだけは年齢もあるかもしれない、が、わかる気がする。
リビングにミケランジェロが掛かっていたら、疲れるだろう、
常に対話を求められるのも煩わしい。。
自分ならマルケか長谷川利行か・・・何を選ぶだろうか。
それと最近、野見山暁治の今の作品がいいと思ってる、と聞いてバッグから今読んでいる画文集を出したら
あまりのタイミングの良さにこれまた驚いていた。

さて、私のこの半年の作品の鑑定はどうだったかというと。。
細かい話しを含めて、ここでよくアドバイスをくださるお二人の画家からいただいた意見と
本質的にはまったく同じだったのである。
静物と特に肖像は進歩著しいが、風景は捨ててよし、ということだった。
(もちろんお二人は「捨てていい」とはおっしゃっていないが)
ただ一点、
「以前持ってきた「街角」はいまだに覚えている、
 あの画を前に置いて比べて見ろ」と。
そう言われて今、見比べている私であった。

ということで、先月土手のある画を描いて以来、どこか納得ができず
筆を持てなかった私がこれでやっとまたキャンバスに向かえそうなのである。
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COMMENT 4

Wed
2012.01.11
14:24

タブロウ #3h4yWL0g

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Re: 年始に師を訪ねて~ふたたび、師の壁ギャラリー~

こんにちは。

いや、hananoiroさんはそれでいいのです。あくまでも私の場合ですから。
画も自分で気がつくことが最良なんですが、
他人の目にしか見えない自分の悪いところや、良いところもあるように思うんですね。
hananoiroさんはご自分の目を信じてください。
私もいずれ、自分で気がつくようにならなければと思っています。

あと、師の牛島さんに見てもらうのは何より、画を挟んで会話をするのが楽しいからなんですよ。
師であると同時に友人であり、親のような存在でもあります。
だからここのBlogでも堅い敬語は使っていないんです。

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Wed
2012.01.11
13:35

hananoiro #-

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Re: 年始に師を訪ねて~ふたたび、師の壁ギャラリー~

こんにちは^^
制作において、全面的に信頼できる先生がいらっしゃるのはとてもうらやましいです。
心強いことですね。
(私はというと。。師に対してはもう少しクールに考えていて。。
最終的には自分の目と気持ちを優先して制作しています。)

自分の心と頭で描いた世界が自分の手を通して、
作り上げられていく行為に陶酔しますが。。
「それではだめだ」と。
絵を描くって、難しいですね。。


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Wed
2012.01.11
12:25

タブロウ #3h4yWL0g

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Re: Re: 年始に師を訪ねて~ふたたび、師の壁ギャラリー~

野窓さん、こんにちは。
私は自分の目や判断はまだまだそれほど自信がなく、
誰かの目やあるいは本など、さまざまな視点を通して確認すること、多々あります。
すぐれた目や視点を持っている人は、自分の目だけで正しい判断ができると思いますが
そういうのはうらやましいですね。

今までわからなかった、いいと思えなかった画が
あるとき突然良いと思うようになる、つまり見えてくることほどうれしいことはない、
師ともそれについては大いに意見が一致しました。
それを発見するには画の実物に触れるのが早道になることもあります。
だから展覧会に実際に足を運ぶというのは、私には大事です。
野窓さんの作品の実物を初めて拝見したときの感動も、
たった1点でしたが忘れられない経験です。

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Wed
2012.01.11
06:22

野窓 #-

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Re: 年始に師を訪ねて~ふたたび、師の壁ギャラリー~

こんにちは。

タブロウさんは人生の変節の度に師匠の様な方と出逢ってるんですね。

確かに物事を視ると言う事は美術の根源であって、あらゆる本質を視る眼力と共通すると思います。

私はタブロウさん御自身にも、その眼力は備わってると感じています。

絵は面白いモノで絵に付いて考えた時間と言うものが画面に滲みでてくると思います。

最後は技術でなく、、。

私にもまだ答えは出せないでいます。

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