中間色の巨匠、アルベール・マルケ:Albert Marquet

 21, 2010 20:18
マルケ_01

昨日出かけた展覧会でうれしかったのは
マルケの作品が思いもよらず4点も展示されていたことだった。
この地味な画家の作品を、日本で見る機会というのはあまり多くないが、
パリ、とくにセーヌを描いて彼ほど郷愁を感じさせる画家はいない。

 パリにいるときは一顧だにしなかった若い画家が
 しばらく遠くへ離れていて帰京してきたときにマルケ作品を見ると、
 ため息と共にノスタルジーを感じる、
 そういう画家だと、岡鹿之助が書いていた。

マルケは郷愁だけでなく、実はデッサン、色彩の両方に長けた画家だ。
地味なポジションにあるのは、メジャーになるための新規や独創に走らなかったからに過ぎない。
晩年、フランスでは私たちが想像する以上に、
同時代の画家たちから尊敬を集めていたらしい。

・・・・
私が初めて知った画家(ゴッホなど教科書に載っている画家は別として)が
このアルベール・マルケAlbert Marquet 1875-1947)だ。
1974年に母がマルケ展に友人と行き、何枚かの絵はがきを買ってきた。
その中にあった「ポンヌフとサマリテーヌ」の昼と夜を描いた作品を見て
まるで自分が(まだ見ぬ)パリにいて、雨の日にやることもなく
窓からこの橋を眺めているような贅沢な気分がして
子供心になんとも言えず胸に染み入り、飽かず毎日眺めていたのだった。
今もし母が生きていたら、マルケについて、絵についていろいろ話ができたのに、と思う。
上の絵はそれと同じものではないが、今ブリヂストン美術館に出品されている作品だ。
下はその夜のバージョンで、マルケは自宅窓からこの風景を十数年間、繰り返し描いた。

マルケ_02


それ以降、日本で大きなマルケ展は1991年の一度くらいしか行われていない。
一見地味に見えるマルケだが、本当に上手いと思う。
クロッキーの巧さから、彼の地ではフランスの北斎とも呼ばれていた。
油彩のタッチを見ても筆に迷いがない。そこに乗った色彩がすばらしい。
画面を埋めるタッチは少なく、
極端なものになると、タッチの数を数えられるくらいなのに、
その場の空気を丸ごとつかんでいる。
タッチの一つ一つは最も必要な場所に、最適の色彩が置かれており、
まったくうらやましいデッサン力である。
ピサロなどに比べても余裕しゃくしゃくに見える。

パリを描いた作品は乳白の中間色で描かれている。
牛乳で溶かれたようにとろりとした色彩は、一説によると
若い頃非常に貧乏で高い絵の具など買えなかったため、
安いグレー系の絵の具を買って描いていたから、とも言われている。
年をとってからやっと絵で食べられるようになった。
晩年も酒・たばこ一切やらず、夜は早く寝て朝は早くから描き、
生涯絵の勉強を怠らなかったということである。
エキセントリックなエピソードとは無縁の画家だが
この絵画スタイルは真似しようにもなかなかできるものではない。
繰り返しになるがこの一つ一つのタッチの色を正確につかむのが
なかなか容易ではないのだ。

下の画の一つ一つのタッチに置かれた色彩、すばらしく的確で美しい。
イーゼルを立ててこの風景を直接見ながら描いているのだろう。

マルケ_03 マルケ_05

マルケ_06 マルケ_07

最近の写実絵画は唸るような細密描写で描かれていて、
一見写真のように見える・・・が
写真のように見えて、描かれているその場にいるような気には
決してさせてはくれないのである。
写真の引き写しに気を取られてしまって現場、実物の感動を伝えていない。
ミレーは写真の表現に飽き足らなくて絵筆をとることになったそうだ。
「写真の表現に飽き足らない」ところが大事なのだと思う。

さらに、マルケは風景画家として有名だが、
すばらしい裸婦作品も残している。

マルケ_04


これら、マルケ作品は日本ではなかなか見ることができる機会が少なく、
手に入る画集も少ない(海外でも)。
おすすめは1974年と1991年の日本のマルケ展図録で
収録作品数やプライベートの資料写真も多い。
ただし74年版は半分がモノクロ印刷である。
ネットオークションにも時々出ていて入手は比較的容易だ。
海外のものだと「From Fauvism to Impressionism: Albert Marquet
David F. Setford (ペーパーバック - 2002/2/9)」
Amazonで入手可能。

ネットではいくつか充実したサイトがある。
美術館絵画鑑賞ノート
マルケ以外にも数多くの画家について、執念の画像リンクが貼られている。

State Hermitage Museum.
高解像度の画像が多数貼られている。
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Tag:マルケ Albert Marquet

COMMENT 8

Fri
2013.05.10
01:36

タブロウ #3h4yWL0g

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No title

masaさん、はじめまして。
赤いブランケットの裸婦、もちろん知っています。
この青い裸婦と二点は、マルケの代表作としてよく挙げられる作品です。
ポスターをお持ちだったとは、うらやましいですね。
マルケのポスターはなかなか見ません。
海外のポスター専門の(ネット)ショップには豊富に揃っているようですが。

そろそろ日本で展覧会をやっても良さそうです。
前回からもう20年以上になりますから。

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Thu
2013.05.09
23:56

masa #-

URL

No title

こんばんは。
マルケファンです。
大阪(あるいは京都)で、70年代に展覧会で見て以来、ファンになりましたが、すぐにマルケという名前を失念するぐらい地味な画家さんですね。この方のヌード画に、赤いブランケットのようなものに横たわる裸婦像があり、展覧会で一番大きなポスターを買って、自室の天井に張っていました。10年ぐらい張っていたと思います。今でも目に浮かびます。アップされている裸婦画は、バックがブルーなので、少し違うと思うのですが…マルケという地味な名前同様、淡白さのなかに、日本人の情緒に似た、水分の多さを感じました。

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Sun
2012.02.05
13:00

タブロウ #3h4yWL0g

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Re: 中間色の巨匠、アルベール・マルケ:Albert Marquet

木林太郎さん、はじめまして。
美術館のHP、拝見しました。
個人コレクションとしてはかなり幅広く、大きいものですね。
その中でマルケが4枚もあるのは嬉しいことです。
なかでも「パリ、ルーブル河岸」「アルジェの港」はすばらしいと思います。

国内での大きな回顧展から20年が経っています。
そろそろ日本で開催されてもいい頃なんですが。。

Edit | Reply | 
Sun
2012.02.05
09:14

木林太郎 #IH1A5hso

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Re: 中間色の巨匠、アルベール・マルケ:Albert Marquet

名古屋のヤマザキマザック美術館でマルケ作品数点展示されています。
何か気になる作風なので作家名で検索してここにたどり着きました。
大きな色面のタッチが絶妙に配置され一見してマルケとわかる独特の画風ですね。
どこか日本の熊谷守一に通ずるものも感じます。

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Fri
2011.11.18
12:40

タブロウ #3h4yWL0g

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Re: 中間色の巨匠、アルベール・マルケ:Albert Marquet

fukueueharaさん、はじめまして。

このBlogの絵画ページのなかで意外にも最も「拍手」が多いのが
このマルケの記事なんです。
書籍資料やネット記事が極端に少ないせいもあると思いますが
好きな人は本当に好きな画家なのだと思います。
多少見慣れてきても、数ヶ月、あるいは一年ほどするとまた
郷愁に駆られて見たくなる、そういう画家ですね。

Edit | Reply | 
Fri
2011.11.18
11:20

fukueuehara #-

URL

Re: 中間色の巨匠、アルベール・マルケ:Albert Marquet

趣味で油絵を描いている者です。 知人からマルケのことを知りました。

飽きの来ない心馴染ませる絵ですね。

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Wed
2011.10.05
11:42

タブロウ #3h4yWL0g

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He.さん、はじめまして。
丁寧で心温まるコメントをありがとうございます。

マルケはほんとうにすばらしいですね。
私にとって
「いつまでも眺めてみたい画」
「自分の部屋、家に一枚は掛けたい画」
それがマルケです。
淡々と描かれた風景になんの主義主張もありませんが
これほど心に染み入る画もまたありません。
画本来の魅力を何のてらいもなく表現できた希有の画家だと思います。
私の拙Blogでもっとも共感(拍手)いただいているのもこのマルケの記事です。
私たち同様、少ないながらも熱烈なファンがいるということだと思います。
日本ではしっかりした画集がないのが非常に残念ですが
もしそちらの国でいいものがあれば、是非ご紹介ください。

私の作品も見ていただいたようで、
地球の反対側の遠い空の下から掛けていただいた言葉にただただ感激です。
社会の理不尽なことには苦言ばかり言っていますが、
作品はマルケ同様主義主張なく、自分がいつも見ていたい対象をコツコツ描いています。
新しい表現やメッセージとは無縁の古いスタイルの画ですが、
これからもときどき見ていただければとても幸せです。
今後ともどうぞ、よろしくお願いいたします。

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Wed
2011.10.05
03:01

 #

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