あるショートフイルム

 03, 2012 01:14
BSで放送されていた「ショートストーリーズ」、
これは世界で作られた短編映像作品の優秀作を集めたものだ。
ショートフイルムとは直訳すれば短編映画となるが、本質はけっこう違っていて
営利目的からはやや外れる「自主映画」のニュアンスが強く、
やはり「ショートフイルム」でなくてはいけない。

東京に来たばかりの頃、こちらに転勤してきた幼なじみの友人と熱中した映画作りは
今思えば自主映画であった。
当時は今の「ショートフイルム」という概念がまだ一般的ではなく、
本物の映画に一歩でも近づこうとした我々の涙ぐましい努力の結晶は
金と時間ばかりかかって二本目で頓挫した。
俳優の別所哲也はこの映画祭「ショートショートフイルムフェスティバル」の代表を勤めると同時に
横浜に専門映画館を運営している関係から、番組司会も務めていた。
「ショートショート」というくらいだからCMのように短いものを想像しがちだが、
中には15分以上の、まさに短編映画と言っても良さそうな作品もある。
しかしこの手の映画の専用映画館が商業的に成り立っているというのがまず驚きで
かつて「ぴあ」片手に、どこかのマンションの怪しげな暗く狭い一室で見せられた
8mmフイルム上映会しかなかった時代とは隔世の感がある。
昔は学生の文化祭的な色合いが強かったと思うが、
最近の作品を見ると、商業作品やCMの映像となんら遜色のないクォリティを持っているのに驚く。
かつて手塚真や塚本晋也などがスター監督だった頃の手作り感あふれる、
低コストをGoodアイデアでねじ伏せていた頃と比べるとなんとも華やかで都会的だ。

ところでそれらの作品、
録画してみたものの、一回しか予約していなかったことが悔やまれる。
とても面白かった。
今年の映画祭参加作品だけを放映していたのかと思ったら、
過去の名作を集めたものだったようだ。
私が見たのは録画した2本と、Webで公開されている7本(一本は重なっていた)、合計9本、
どれも味わいがあり、海外作品の骨太さ、役者の演技の確かさ、
原作のアイデア力、なにより演出のユーモアの質の高さにうならされた。
ユーモアとは、国民の文化レベルに比例する。

今回紹介する一本はWebでは公開されておらず、すぐには見ることができない。
だからネタバレ承知で書くので「それはまずい」と思われる方はとばしてください。
・・・・

人生でしたい事-1

「The Remaining Days(残された日々)」
カナダ、監督:Simon Olivier Fecteau(サイモン・オリビエ・ファクトー)

冒頭時計のアップから作品は始まる。
人気のない家の中で、昔の品を整理しているひとりの老人がいる。
彼の若い頃の写真がある、
先立たれた妻のラブレターがゆかりの品とともに出てきたりする、
全ては過ぎ去った昔のことだ。
ふと取り上げた一枚の紙に目を留める。
それはかつて夢に思いを巡らし、「人生でしたい事」を書いたメモだった。
人生でしたい事-2

はっとする老人、
ふと目を上げれば、鏡には老いた自分の顔が写っている。
老人は鏡とメモをしげしげと見比べた後、杖を取り上げ家の外へ歩き出す。
そこから老人は、若い日に「人生でしたい」と思ったことを今の自分なりの方法で
一つ一つ達成していく。
映像はそのさまをユーモラスに小気味よく映し出し、
このあたりのテンポの良さは質の高いCMを思わせる。

最後のミッションは「スカイダイビングをやる」ということだった。
セスナ機に同乗している孫に等しい年齢の女性ダイバーとともに、予定高度まで飛ぶ。
若い女性は恐れることもなく宙に消え、老人の順番が来た。
狭心症の薬だろうか、緊張の中それを飲み込むと思い切って機外へ飛び出した。
ダイブしながら初めて見る上空からの生の景色に息をのむ。
老人はダイブしながら「人生でしたい事」が書かれた最後の行をペンで消した。
かつての望みは今、すべて達成されたのだ。
あとはパラシュートのひもを引いて地上へ着くまでのしばしの時間、
空中散歩を楽しむだけだった。
と、一度はひもにかけた手を、老人は一瞬のためらいの後、ゆっくりと離す。
わずかにほほえみを浮かべながら、老人は落下してゆく。。


この作品はどの視点から見るかで見た後の余韻は違ってくるだろう。
番組司会の二人は「僕なら(私なら)何をしたいか」という問いに夢中になっていたが
それでは無邪気に過ぎる気がする。
ある年齢以上の人なら、老人がほんとうに「生きていた時間」を考えるだろう。
その視点から描かれた作品は過去に多い。
黒澤明の「生きる」がそうだし、
最近では「最高の人生の見つけ方」(M・フリーマン、J・ニコルソン)がそうだった。
小説なら以前ここに書いたモームの短編小説も同様だ。

人間、慣れ親しんだ環境で平穏な生活を日々淡々と過ごす幸せもあるだろうけれど、
なにか目標を持ってそれに邁進する「充実感」を持つ幸せというのもある。
若い時には迷わず後者を選択するだろうけど、
年を取ったからといって前者を選ぶとは限らない。
本作では、目の前に突然現れた「人生でしたい事」をするという目標、
これを一つ一つ達成する日々が、老人にとって生まれて初めての
「生きていた時間」だったと言える。
そしてそれらを達成した瞬間、
ふたたび生きながら死んでいる時間が始まることがわかったのではないかと思うのだ。
その意味で老人は、人生のピークに生を終えた幸福な一生だったと言える。

この「残された日々」はWebでも見ることはできないが、
YouTubeなんかでは可能かもしれない。
他にも良い作品があり、いくつかはまだこちらのサイトで見ることができる。
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