辺見庸とマリオ・ジャコメッリ

 15, 2012 19:45
読後、時間が経っても強い印象が残っている辺見庸の本が2冊ある。
共にNHKで放送された番組から大幅に加筆後出版されたものだ。
スカンノの少年

そのうちの一冊は「私とマリオ・ジャコメッリ」。
この本が出版された2008年当時、日曜美術館でもジャコメッリを取りあげて
写真家と同様の比重を割いて、辺見庸のコメントも紹介していた。
しかしこの番組は、まるで辺見庸の言葉を聞くためにジャコメッリを取りあげたような
そんな番組でもあった。
私はこの番組を見て、写真家ジャコメッリと作家辺見庸を知った。
NHKは一年おきくらいに何らかの形で辺見庸に取材している。
昨年3.11の震災後にもその言葉が待たれたが、今夜4月15日、またETVで取りあげられる。
2008年の日曜美術館ではジャコメッリの写真もさることながら、
辺見庸の姿とその口から抽出されような言葉の存在感に圧倒された。
共同通信のジャーナリストから小説家へ転身、
しかしその語り口は思想家であり、哲学者であり、
それでもジャーナリストの背骨は太く貫かれている。
一方、ジャコメッリ(Mario Giacomelli)の写真は
一見、あるがままに被写体を写しながら、写し取ったものは「彼自身の表現」そのものである。
上の写真「スカンノの少年」の奇妙で不安の渦に巻き込まれそうな、
それでいて圧倒的な実在感。

老人のためのホスピスで撮られた「死が訪れて君の眼に取って代わるだろう」というシリーズは
死にゆくものの側から見た風景である、という辺見庸の指摘にはショックを受けた。
ジャコメッリ-2
写真家はホスピスに入った最初の一年はカメラを持たなかった。
二年目にようやくカメラを持ち、三年目に最初に写真をまとめ、
最終的に30年後にこのシリーズにまとめた。
老人たちが自分に慣れるまでカメラを持たずじっと時を待ったが、
いざ撮影に入ると、被写体の至近距離でストロボをたき、容赦ない分け入り方をしている。
老人たちにレンズを向けながら、結果として定着したのは老人から見たこちらの世界への視線である。
一般のドキュメンタリー写真とは取材方法が似ていても全く異なる世界だ。

また、海外の写真集の表紙にもなっている、
十数人の黒衣の神父たちが真っ白の背景の上で手をつなぎ、
踊るように輪になった写真がある。

giacomelli

ドキュメントなのか創作なのかもわからないこの写真は、彼には珍しく構成的で美しい作品である。
ここに写っている神父たちの中に、
作家須賀敦子に関係の深い人物が写っている。
須賀作品で有名なコルシア書店の中心的な人物などが写っているらしい。
「らしい」というのは、須賀作品の中にそう書かれていたからだ。
自分の好奇心の範囲がこんなところで細い糸によってつながったことにちょっと驚いた。
カメラを持つ前、若い日のジャコメッリは画を描き、詩を綴っていた。
その画家の部分と詩人の部分が美しいコンポジションを生み、
印画紙上に幸福な開花をした映像に思える。
先の老人たちの崩れそうな映像が「死にゆくもの」の視点だとすれば、
この神父たちが輪舞するような写真は「死後の世界」をのぞき込むような趣がある。

辺見庸はジャコメッリの作品群と向き合って思う。
「資本で束縛された現代社会において、
 なぜジャコメッリはこれほど自由な表現者でいられたのか」と。
「これらジャコメッリの作品でさえ、現代では即日CM写真として使われる可能性がある」
との指摘はその業界の末端にいる自分に突き刺さる。
差し貫いた言葉はそのまま業界全体を貫くようにも思う。
そう思えなければ嘘だと思う。

ジャコメッリはこれら「異界」へ通じる穴を我々に開けて残し、
生涯アマチュア写真家として生きて2000年に75才で死んだ。
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Tag:辺見庸 ジャコメッリ

COMMENT 4

Thu
2013.01.24
00:35

タブロウ #3h4yWL0g

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こんばんは。
コメントと、展覧会の情報をいただき、ありがとうございます。
ジャコメッリはカメラを初めて手にした一年後にホスピスに入り、
老人たちを撮ったと読んで、驚嘆しました。
彼はそのあと、こういう言葉を吐きます。
「私はかつておまえだった。おまえはやがて私になるだろう」

辺見庸の本はぜひ読んでみてください。
展覧会は楽しみです。
ジャコメッリの写真集はどれも高価なので、展覧会図録にも期待していますが
果たして発行されるかどうか。。
前回の図録にあたる薄い写真集は、写真が少ない上に小さく不満な出来で
購入しませんでしたから。

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Wed
2013.01.23
16:20

名無し #-

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昔、渋谷のロゴスにジャコメッリの写真集が飾られていたのをみたとき
一瞬にして引き込まれ、写真集を衝動買いしたことがあります。
辺見さんの本について書かれた文章が
とても興味深かったです。是非読んでみます。
ちなみに、再びジャコメッリの写真展が東京写真美術館で開催されるようです。
http://www.parco-art.com/web/other/exhibition.php?id=532

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Thu
2012.04.19
22:41

タブロウ #3h4yWL0g

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Re: 辺見庸とマリオ・ジャコメッリ

お久しぶりです。心熱くなるコメント、どうもありがとうございました。
画のところでも同様に、本当にうれしい言葉をいただきました。
PCはなかなか新しくできませんね。
いっそ、スマホにでもされてはいかがでしょう。
私はまだ使っていませんが、Blogの閲覧と管理くらいであれば、全然大丈夫みたいですよ。

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Thu
2012.04.19
21:34

 #-

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Re: 辺見庸とマリオ・ジャコメッリ

私は、なにより あなたの解説があなた個人の身体を通して紹介されてるこの文章が 素敵だと思う。
やっと、久しぶりにこのブログに来れました^^
PCが不調なものでお気に入りがなかなか出せなくて

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