映画「旅情」とベニスの思い出

 22, 2012 18:53
ベニスの思い出(F4、パステル)

中年のアメリカ人女性とイタリア男がベニスで恋に落ちるメロドラマ、「旅情」。
こんな甘い映画はもう見ないだろうと思っていたものの
TVで冒頭を見出すとそのまま最後まで見てしまった。
映画ファンなら誰もが知っている「旅情」というタイトルも
今の若い世代で実際に作品を見ている人はほとんどいないんじゃないだろうか。
有料無料を問わず、あらゆる雑誌には必ずと言っていいほど映画に関するコラムが連載されているが
以前若い「シネマライター」が「今回初めて黒澤作品を見たが・・」と書き出していてびっくりしたことがある。
漱石の坊ちゃんを読んだことのない文芸批評家というのが成り立つのだろうか。
クラシック作品は名作といえどもノスタルジーの垣根の向こうへ追いやられる時代になった。
・・・・

主役の二人に近い年齢になって再見する「旅情」には、初見の20代の頃とはやはり違った印象がある。
舞台になったベネツィアは本作では「ベニス」という言い方がしっくり来る。
いつの時代も世界中の旅行者からファンタジックな夢の地であり続けるベニス。
この作品で描かれるのはアメリカ人女性の倫理観とイタリア人男性の人生観のぶつかり合いだ。
アメリカ人のジェーン(K.ヘップバーン)は夢にまで見たベニスへ旅行で訪れ、
地元の骨董商、アンディ・ガルシア似のレナート(ロッサノ・ブラッツィ)とこの街で深い恋に落ちる。
オールドミスのジェーンにとってはおそらく一生に一度の大恋愛である。
ラブストーリーをやや複雑にしているのは、レナートには別居中の妻がいて、
二人の最初の仲立ちをするのがなんとレナートの息子であるという設定だ。
レナート自身に「イタリアではこれが普通だよ」と言わせずに、
彼のまじめな息子に仲立ちをさせることによって「イタリアではそれがありふれた風景である」、
と見る側にわからせるところに、監督のセンスを感じる。
気持ちが離れればまた新たな相手を求めるのは当然、というイタリア人の人生観にとまどうのは
60年後の今に至ってもイタリア以外の多くの国では、それほど変わらないのではないだろうか。
レナートと法律上の妻との間にはすでに愛情がなく、長く別々に暮らしている。
しかし彼らはなお「夫婦である」という事実にジェーンは
「私たちには未来がない」と言い残してやや唐突にベニスを後にする。
二人のその後の人生は何となく想像ができる。
どちらが幸福なのかは本人にしかわからないが、
舞台がイタリアであり、ベニスであることが映画を「あり得るかもしれない」話にしている。

メガフォンをとっているのは「アラビアのロレンス」で有名なイギリス人監督デビット・リーンだ。
外国人の目で描かれる二人のキャラクターは少し誇張があるかもしれない。
しかし描かれる二人は同じキリスト教徒でありながら
これほどの倫理観、人生観の違いを持っているのだ。

私は幸運にも不況前に、二度ベニスを訪れている。
二度とも初夏から夏の時期で、この街の風物詩である街の水没はなかったものの、暑い暑い時期だった。
最初はひとりで、二度目は母を亡くしたばかりの父と結婚2年目の妻を伴っての三人旅行だった。
どちらも行き当たりばったりの旅だったので、
到着後二人を残して私一人、宿探しに奔走したことを思い出す。
とりわけ印象的だったのは、この街を私たち息子夫婦と訪れ、
夜間サンマルコ広場で弦楽トリオの演奏を妻とともに見つめる父の、終始夢見るようなまなざしだった。
その後、私たちが家庭を持ったことや父自身の体調のこともあって、
皆に二度とは訪れることのないだろうあの時を思うと、ため息をもって、
やはりベニスは夢の地だったのだなと、今も思う。
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Tag:Landscape Paysage 風景画 映画

COMMENT 3

Fri
2012.11.09
00:50

就職活動 #-

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とても魅力的な記事でした!!
また遊びに来ます!!
ありがとうございます。。

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Sun
2012.07.29
01:08

タブロウ #3h4yWL0g

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のまどさん、こんばんは。
コメントありがとうございます。

のまどさんが指摘くださるところはいつも、
他の人があまり見ないようなところだと思います。
そういうところは私自身が注力した場所であることが多いので、少しほっとしたりしています。
ところでこういう空の色は、日本では見られない色調ですね。

のまどさんの方の更新も、楽しみにしていますよ。

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Sat
2012.07.28
16:48

のまど #-

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タブロウさんの絵は空の色調が何時も良いですね。

海も太陽の光を溜めこんでまったりと。。

瀬戸内で育って島にも渡ってたので、小さなポンポン船から海に差し込む光を飽きずに眺めていました。

私の方は7月は骨董の方が忙しくなってブログ更新も少なくなりました。。

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