ガラクタから名作

 21, 2013 01:02
「らいちょう」

こんなこともあるんだ、という話。

露店や商店街に期間限定で店を出しているアンティーク屋というのは
骨董といえば聞こえがいいが、大半は古く加工した新物(アラモノ)を扱っていたり
半ばリサイクルショップに近い店がほとんどだ。
ふだんは通り過ぎるそういった店を、
たまたまひやかしに入って千円均一のカゴをかき回したところ
ガラクタと色あせた複製画に混じって、なんと畦地梅太郎の版画が入っていた。
オリジナルの、しかも自摺り版画、
裏を見ると「創文社創業三十周年」と書かれている。
とすると、その年号から同社は今は六十周年を越えたということになる。
うれしさとコーフンを押さえて千円を渡し、さっさと店を後にしようとすると、
後ろから店の女性が声をかけてくる。
「たくさん画があるから、また来てね」
後日、浅ましくも二匹目のドジョウを求めたが、当然カゴの中は全てガラクタであった。

創文社とは、哲学や歴史書など、かなり硬派の書籍を扱う老舗の出版社であり、
同時に山の雑誌「アルプ」や辻まこと、串田孫一などの山に関する本でも有名だ。
登山そのものよりも、山を思索と創造の場ととらえた書籍を出版している。
同社での装丁の仕事も多い畦地画伯は、さぞ制作にも力こぶが入ったのではと想像される。
ここに描かれたと言うか、摺られた愛らしい雷鳥の図柄は現在、
画家最後のアトリエだった鶴川の自宅を美術館に改装した「あとりえ う」で
木の置物やバッヂなどのキャラクターとしても販売されている。
一度同館を訪れた時に、版画を買うか、雷鳥の置物を買うか迷ったことがある。
結局版画を買ったのだけれど、
こういう形で自分のところにあの雷鳥がやってきたのも奇縁。

すべての作家が山をモチーフにした作品の中で、私は畦地梅太郎の作品が最も好きだ。
古い洋館の壁や、和室にも合う畦地作品は、山、小屋の空気はもちろん、
昭和中期までの空気を濃厚に発している。
画家は最初、具象から抽象へと向かったが、山をモチーフにして以降は具象へと戻った。
だから畦地の風景、人物、動物など、モチーフは抽象化ともいえる単純化がされている。
そのシンボリックな絵柄に渋くしっとりとしたアースカラーの色彩が加わって
山好きにはこたえられない魅力となっている。
山男、山に登る家族、女性、山の動物、それに人のいない風景さえ
いとおしさを感じないではいられない独特の色とフォルムがある。
一見シンプルで静的な画面、
平日山に行けずに下界で悶々とする山好きがそれを見る時、作品は実に雄弁である。
日本アルプスをモチーフにした作品などはとくにすばらしく、
こけしのような穂高連峰など、いつかは自宅にかけてみたい名作だ。

北海道に住む弟が作った自家製ワインをもらったとき、
ビンに畦地作品をコピーしてラベルにしたら、何ともよく似合ったものだ。
(本当はウイスキーなんかの方がもっと合うだろうけど、飲めない)
ワインを口にする時にラベルを眺めれば、やはり山で口にした夜の
山男たちの顔や楽しい話を思い出すのである。
山ガールなどがまだ影も形もなかった頃のこと。。

山からすっかり遠ざかってしまった私の部屋に、
この「らいちょう」の画は、山の空気も届けてくれたような気がする。
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COMMENT 6

Wed
2013.02.27
20:14

ぱんどる #-

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ご無沙汰です。

良い話ですね~物語に吸い込まれました。

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Mon
2013.02.25
13:43

タブロウ #3h4yWL0g

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No title

KENさん、こんにちは。

私はKENさんの自由闊達な作品とアクティブなフットワークをうらやましく思っています。
ブランクは長かったですが、若い時に恩師竹中先生に鍛えられたおかげで
すぐに取り戻すことが出来ました。
今は正確なだけの描写から一歩前へ出ようと苦心しています。

畦地作品は山好きのKENさんにもこたえられないんじゃないでしょうか。
とくに山と山男の作品なんかが「ストライク」だと想像します。

Edit | Reply | 
Mon
2013.02.25
08:41

KEN #T9f8X956

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No title

タブロウさん、のまどさん、ご無沙汰しています。
骨董品探しがお好きな二人のことは知っていましたが、ガラクタの中から本物を探しあてるのはとても興奮しますね。おめでとうございます。

体調不良の件、ご心配かけてすみません。おかげ様で先週後半くらいからぼつぼつ外出できるようになりました。

 いつもブログで作品拝見していますが、長い期間筆をおいておられたとはとても信じられないです。

 それにブログでの幅広い話題で未知への遭遇させてもらっています。今朝も、はじめて知った「山の版画家・畦地梅太郎画伯」の絵をネットでみてきました。その中の一枚、KENのTOPページにも張り付けましたが、山男(?)の版画作品を模写してみました。山男の独特の雰囲気が気に入りました。
ありがとう。

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Sun
2013.02.24
20:23

タブロウ #3h4yWL0g

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No title

のまどさん、こんばんは。
お察しの通り、畦地作品です。
見つけた時はサインが目に入ったのですぐに自摺りの作品とわかりました。
埃をかぶっていましたが、幸いシミもなくてよかったです。

畦地画伯には伊予風景の連作もありますが、
同郷で地元ののまどさんにはとりわけ味わい深いかもしれませんね。
日本の海沿いの町は、風景もよければ食材もいい、
いつか日本の地方がもっと人を惹きつける時代が来ればいいと思います。

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Sun
2013.02.24
08:06

 #-

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No title

タブロウさん、こんにちは。
版画の良い版画との出逢いがあったと書かれてたので、もしや畦地画伯の作品かと想っていましたが、、やはりそうでしたか。。

畦地梅太郎氏とは愛媛と言う同郷です。
南予のあたりは色々と進取の気性がある土地柄だったそうで、江戸から蘭学を学びに宇和島まで来てたそうです。

しかし不思議な事があるのですね~。
以前、ある分野で日本を代表する方とお話する機会がありましたが、運命とか引き合わせる引力みたいな不思議な力みたいなモノは在ると仰ってました。
やはり作品は収まるべき処に収まるんでしょうね。。
こちらも心が温まる気がしました。

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Fri
2013.02.22
14:51

 #

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