キューバという国

 17, 2013 19:45
ソ連が崩壊した時、社会主義の失敗がはっきりしたと、TVで言っていた。
しかしそれは正確とは言えず、
世界で唯一今なお成功している、と言われている国があって、それがキューバだ。
その国の映像を初めて見たのは
映画「ブエナビスタ・ソシアル・クラブ(Buena Vista Social Club)」だった。Buena Vista Social Club

南の国で楽しそうに暮らす人びとの映像を見たら、音楽も忘れられなくなった。
今も時々サントラ盤をiPodで聴く。
映画は、キューバの老ミュージシャンらがバンドを結成して
彼らを見いだした西側を代表するミュージシャン、ライ・クーダーの
プロデュースによって米国カーネギーホールで上演するまでを描いている。
ボーカルのイブライム・フェレールはここに参加するまで、
30年間キャラメル売りと靴磨きをして暮らしていた。
ギターの当時90歳になるコンパイ・セグンドも世間からは忘れられ、
長く葉巻職人として暮らしていたのをこのバンド活動によって
グラミー賞を取るまでなったのはクーダーの手腕によるのだろう。
何人ものボーカルが代わる代わる歌っているが、ともにすばらしい声質が忘れがたい。
「いぶし銀」という形容がこれほどふさわしいものもない。

映像はキューバの、音楽と渾然一体となった生活風景が素晴らしいのだが
それはとくにヴェンダース監督の手腕というわけでもない気がする。
ライ・クーダーのほうはどうだろうか。
私には、彼の「未開人のよいところに光を当てる文明人」的な目線がちょっと鼻につく。
キューバン・ミュージシャンらへの敬意ははたして本物だっただろうか。
・・・・

ところで、島地勝彦氏のエッセイに出ていたキューバの生活事情が興味深い。
日本の半分の面積に、1/10の1100万人の人が住んでいる。
教育費と医療費は無料だ。
なおかつ、国民一人あたりの医者の数は世界一で、しかも腕がいいときている。
食料は配給制で国民はすべて公務員、車は国有でみな国から借りて乗っている。
医者の給料は日本円で8万円、警察官と兵隊は6万、タクシーの運転手は5万、
掃除のおばちゃんは3〜4万円だそうだ。
みな音楽好きで、恋が命。
何かあれば歌ったり踊ったりして楽しく暮らしているのは
日本の南国、沖縄とよく似ている。
沖縄だって米軍に占領されず、日本からも友好的に独立していれば
キューバのような国だったかもしれない。
ところでキューバの町を50年代のアメ車のオールドモービルが走っているのを
TVや雑誌で見たことがあるひとは多いだろう。
これはキューバ危機でアメリカと国交を断絶した時に国内に残っていた車を
今なお修理して乗り継いでいるからである。
アメリカと関係を断った国が、
貧しいながらも幸福そうに暮らしているのは、示唆的である。

さて、中東やソ連の旧社会主義国が崩壊する中、
キューバだけがどうして社会主義国としてのんびり存続していられるのか、
それはひとえに国の指導者、カストロによるものである。
カストロにあって、レーニンになかったもの、
それは親友だという。
カストロにはゲバラという親友がいた。
ゲバラにいつも天から見られているという気持ちが今も革命時の軍服を着続け、
60年間清貧に甘んじて国民の鑑となっているのだという。
すべてがすべて、キューバ人は今のままでいいと思っているわけではないだろう。
キューバは観光業が近年盛んだが、主に砂糖と葉巻で外貨をかせぐ貧しい国だ。
亡命するスポーツ選手やアーティストは今も多くいる。
しかし、「あのカストロに免じて、今は我慢してやろうじゃないか」、
多くの国民はそう思っているらしい。
一見幸福そうに見えるキューバという国も、カストロはやはり独裁者には違いない。
今の陽の面に至る負の面には血も流されたはずだ。
しかしキューバの市中にカストロの銅像はなく、目につくのはゲバラのポスターである。
それは間違っても、日本で貼られているポスターのようなファッションでない。
イラク、ソ連、そして北朝鮮、これらの国に共通してあったのが独裁者の銅像だ。

先に書いた、キューバになぜ医者が多いのか、
国の子どもたちはみな「ゲバラのようにになりたい」という。
ゲバラは医者だった。
だから優秀な子どもたちはみな医大を目指すのだそうだ。
キューバの医者には夢と希望と誇りと使命感がある。
だから地震災害の救援には、キューバという国は真っ先に医師団を派遣するのである。

国の舵取りは考え方ひとつで、人は歌って踊って恋して、
少し働けばそれで幸せに暮らしてゆけるということらしい。
なお、古いものが多いこの国土に新しいマンションが建てられた時には、
貧しいものから順に入居するのがこの国の信じられないルールであるそうだ。
キューバ国民は幸せである、と同時に、カストロもかなりの高齢だ。
彼亡き後にキューバが今の世界に放り込まれた時、
国の理想は守られるだろうか。


(追記)
文章をアップしたあと、カストロが50年間治め続けたキューバという国を
こう手放しで賞賛していいのかと思っているうち、もう少し慎重になるべきと考えた。
カストロの治世とは自分の考え方と違う相手を押さえ続けた歴史でもあり
今は年老いたうえに経済的に国が疲弊し続ける現実が諦めムードを漂わせ、
陽気な歌や国民性とあいまって、一見楽園のように見えるのかもしれない。
革命後、芸術家はサトウキビ畑へと肉体労働へかり出されて制作が出来なくなったという。
そう考えると、イブライム・フェレールらが30年間も靴磨き生活を余儀なくされたのも
プロのミュージシャンとしての活動が制限されたからではないかとも思ったりする。
教育や医療面では世界がモデルケースとして見直しているそうだけれど
負の面はカストロ後にもっと見えてくるだろう。

楽園と自由とは両立しているのか、日本にいてわかることなどほんのわずかだ。
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COMMENT 2

Sun
2013.03.17
14:23

タブロウ #3h4yWL0g

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No title

のまどさん、こんにちは。

映画はずいぶん前に一度見ただけなので、冒頭のシーンもよく覚えていません。
ただ、いい映画だったとだけ覚えています。
オールドバイク好きなのまどさんはきっと、サイドカーが印象的だったのでしょうね。
ゲバラが政治活動にはいる前に南米をオートバイで旅したのを映画にした
『モーターサイクル・ダイアリーズ』はご覧になりましたか?
これもいい映画でしたよ。
監督はあのロバート・レッドフォードです。

私はキューバという国を脳天気に賞賛したあとで少し考え直し、
文章も少し修正しました。
考えてみれば、彼らミュージシャンが靴磨きをしなければならなかったのは
芸術家を「無駄飯食い」と排斥したカストロの政治のせいだとも思いました。
革命直後はずいぶんやりたい放題のことをしたようですし。。
カストロは知性のある勝新太郎みたいなキャラクターだった気がします。
今のノンビリした状況だけを見てもうわべのことしか言えませんね。
少し反省すると同時に、理想とは難しいです。

亀井氏はリーマンショック時の労働者派遣切りのときには
とてもいいことを言って弱者の味方になってくれていたんですが
その後は迷走してだめになってしまいました。
古いタイプの政治家の代表で、彼はそのねちっこいトークのせいで、
「反TPP・脱原発・消費増税凍結」と、正論を言っていたのに
有権者から拒否反応が出てしまうという、いささか気の毒な政治家です。
ゲバラを尊敬するというのも何となくわかりますね。

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Sat
2013.03.16
22:02

のまど #-

URL

No title

タブロウさん、こんにちは。

いや~偶然ですね。  

私もブエナビスタ ソシアルクラブのDVDが好きで何度もみました。
古ぼけたサイドカーでスタジオに乗り付ける所から始まるんですよね。
古いアメ車の残る街並みもノスタルジックでした。。

確かに同じ共産国家でも、キューバは熱帯のせいか悲壮感がないですね。

出演者の歌声には鳥肌ものです、しかし転居に伴いDVDはどこかへ。。

話がそれますけど,、警察官僚出身の亀井静香氏が,共産革命のゲバラを尊敬する人に挙げてたのに笑いました。。

まあそれだけ人を惹きつける何かがあるんでしょうね。

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