作家の足あと(作家 今東光) その2

 06, 2013 01:06
河内山本駅にあった小さな古本屋(名前は忘れた)主人の今東光の思い出話は
「和尚(おっしょ)はんには月に一度の逮夜日に拝んでもろたぐらいのつき合いでっけどな、生きてはったら会わせたんねやけどなあ。」と始まった。
・・・・


「本もぎょうさん持ってはったみたいでんな。
 当時はうちは店頭を魚屋に貸してましてんけどな、
 期限が切れて頼んでも、退(の)っきよらんでなぁ、
 和尚はんにええ知恵あらへんやろか、いうて相談しますとな、
 『裏で化粧品売れ。ほんでな、店先の魚に白粉(おしろい)をべーっとまいたれ!
  香水みたいな匂いのする魚なんぞ誰も買わんわい』って言わはんねやけど、
 そんな突拍子もないこと言われたかてできまへんで。
 結局裁判で立ち退いてもろたけど、和尚はんの考えもなかなか名案やったがなあ。

「八尾の朝吉(映画になった小説「悪名」の主人公)もえらい有名になってしもうて。
 実際の朝吉いうたらぜんぜん弱い男でな。駅前のブラシ屋のセガレや。
 朝吉が死んだんもそうやなあ、五、六年前、あれぁ和尚はんが死んですぐやったかなぁ、
 同い年に死んで、不思議なもんやったなぁ、あれも。

「いつやったか、駅の裏で博打やっとって、みんなアゲられてもうて。
 『交番の裏で博打するヤツがあるかァ』て怒られて。
 なんや、週刊誌の小説にあそこで博打やってるゆうて書いたんがおるゆうて、
 誰かいなぁ思うたら和尚はんや。
 親分がそれ聞いて『和尚はん、殺生やがな。
 お客はんが取り上げられた金、返したっとくれな』いうて頼みに行ってな、
 そしたら和尚はんその原稿料、みんなに配ったってなあ。

「忙しい人やったがな。なんや、映画の撮影も来てはりましたで。
 あのとき飼(こ)うてたみみずくなぁ、
 あれ、誰か近所のもんが持ってったんとちゃうかなぁ。
 夜、やかましいてなぁ、鳴いて鳴いて。
 しばらくしたら、近くの八幡さんの森に逃がしたったんとちゃうかなぁ。
 (これは森繁久弥主演で映画化もされた随筆「みみずく説法」の映画撮影時のこと)

「泉佐野のホレ、イヌナキヤマの寺も掛け持ちでやってはったんや(水間寺のこと)。
 あっちの檀家とえらい喧嘩しやはってなあ、
 若いもん集めて、木刀持たして行きやはった。
 寺に入ってくるもん、一歩も中へ入れんとな。
 (寺が町の無頼漢に長く占拠されていたを取り戻しに行ったときのこと)
 もう、正義のためやったら一所懸命やってはったな。

「面倒見のええ人でな、うちも銀行で借りやんなあかん時、和尚はんに裏書き頼んでな、
 『おっしゃ』ゆうて書いてもろたら銀行も一発や。無担保で貸してくれて。

「えらい貧乏してやはったけど、本書き始めてからやなぁ、楽になりはったんは。
 それまでは歴史ばっかしやから売れへんでな。サラでも(新作でも)二足三文や。
 こら拝んでもらわな、ちゅうてな。(お布施をもらわないと、という意味か)

「ウチなんかこんな商売やってるくらいやからな、—当時はやってへんかったけどな—
 和尚はんが(住職としてこの町に)来はる時には『えらい人が来はったな』思うたわ。

「2、3年前に中尊寺へ行った時は、こんな大きなとこに〝中尊寺〟て書いてあって、
 独特の字書きはるからなあ、懐かしいなあ、て見てましてん。
 (私も後年、歩いて旅したときに中尊寺に寄って、この字を見て懐かしかった)

「その頃は若い人もぎょうさん来たりしてはった。
 『天台院ってどこですか』て聞きに来て。

「小説は大げさなところもあるけど、実際に見て書いてはるからな、本当のこっちゃ。

「お布施が当時のお金で30円。
 (随筆では5円と出ていたのは天台院住職となった頃のことと思われる)


メモも取らずにこれだけ覚えてきた。
古今東西の博識はともかく、私には当時も今も面白い話だった。
今から30年も前の話だ。
その古本屋もそこの主人も、もうこの世にはないだろう。

私にとっての今東光作品の面白さは主に、若い日に出会った後に名を残す人びととの
交遊録を交えた青春小説と、河内ものなどの巷の人間模様を描いた作品にあった。
歴史物も多かったが、開けっぴろげでまる裸の人間を描いた小説は
本を開けばまるでそこに文中の人間の息づかいが聞こえるようだった。

一昨年亡くなった藤本義一さんにも生前今東光について直接お話を聞いたことがあって、
(義一さんは学生時代にこの天台院へよく訪ねてきていた。)
これも20分ほどの間の話を、きっちり覚えてきてノートに書き残している。
よほど集中して聞いていたのだろうと思う。
画とは関係ない話なので、いつか機会があればまた。
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COMMENT 6

Fri
2016.07.01
18:17

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Sun
2016.06.19
22:21

タブロウ #3h4yWL0g

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ちなみに、以下でも藤本義一さんについて、追悼文を書いています。
http://gakakeikaku.blog71.fc2.com/blog-entry-204.html

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Sun
2016.06.19
22:16

タブロウ #-

URL

No title

Mさん、はじめまして。
コメントをありがとうございます。
藤本義一と今東光の話、そういえばまだ書いていませんでしたね。
藤本さんが大学時代に調べ物をするために天台院を訪ねたのが出会いだったと思います。
私が藤本さんに今東光の話を直接伺ったのは一度きりで、
トーク会の20分ほどの話の中でしたので、
それほど貴重なエピソードではないかもしれません。
今仕事がいそがしくてなかなか時間がとれないのですが、
近いうちに書いてここにアップしますね。

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Sun
2016.06.19
14:44

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Wed
2013.10.09
00:54

タブロウ #3h4yWL0g

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No title

KENさん、こんばんは。こちらこそご無沙汰しています。
コメントを頂いてありがとうございます。
二人展、盛況のうちに終了されたようで、おめでとうございます。
そちらは皆さん関西で、近いようで楽しそうですね。

今東光さんの八尾の天台院は、
中世の草庵風の名残を残す唯一の寺だと随筆に書いておられましたが
私が訪れた当時すでにコンクリで建て直されていました。
水間寺は残念ながら行っていません。
そのうちぜひスケッチで見せてください。
最近作の「夜明け」がいいなあと拝見していました。

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Tue
2013.10.08
08:01

KEN #T9f8X956

URL

No title

タブロウさん、ご無沙汰しています。
ブログはいつも楽しく拝読しています。
ありがとう。

今東光さんの思い出話、懐かしく、楽しく読ませてもらいました。
映画「悪名」は見たことがありますが、残念ながら本は読んだことがありません。一度今東光さんのお寺、貝塚の水間寺を訪問したいなあと思っていましたが、いつの間にか忘れていました。

今日はこれから大阪へ行くので時間があったら立ち寄りたいなあと思っています。
KEN

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