カイユボットと川瀬巴水

 22, 2013 01:34
12月はまだ書いていない、二つのいい展覧会に出かけてきた。
ブリヂストン美術館で開催中のカイユボット展
千葉市美術館大田区立郷土博物館で開催中の特別展「川瀬巴水―生誕130年記念―」
川瀬巴水の方は千葉には行かず、
自宅から歩いて8分ほどの近所でやっている大田区立郷土博物館の方に行ってきた。
同時に二カ所で同じ絵を見ることができる、版画ならではのことだ。
カイユボット展

さて、二つの展覧会を見て共通するものがあった。
どちらも水辺や雨(雨上がり)、雪の日の表現に秀でていること。
片や印象派、片や新版画という、それまでの伝統的な表現から抜け出していること。
そして、同じ印象派と新版画の中でも、ひときわリアルな表現になっていることなど。
とくに版画は描くだけでなく、詳細になったリアルな画を版木に掘り出さなくてはならない。
川瀬巴水に多い雪の表現は、いったいどうやって版画にできたのか、
そこの疑問点についてはNHKの日曜美術館で実際に現代の彫り師が再現に挑んでいて、
これが実にわかりやすかった。
今日22日夜の再放送があるので、ぜひご覧になることをおすすめする。
ただ、あの再現はまだ道半ばに見える。
どうももう一版加わっているような気がしてならない。

カイユボット展は東京は今月29日までなので、あと一週間しかない。
日曜美術館でも紹介されたので人出は多かった。
なかでも「ヨーロッパ橋」と、ブリヂストン美術館が今回購入した「ピアノを弾く若い男」
(カイユボットの弟マルシャル)が大きな見所。
ピアノに映り込んだ手と鍵盤の色調の正確さに注目したい。
ヨーロッパ橋

ピアノを弾く若い男

日本にこれほどの作品が入ってきたことがまず驚きだけれど、
20年ほど前までは画家としてはほとんど知られていなかったそうで、
オルセー美術館が印象派の最大のコレクションが持てたのは彼のおかげであるのに
カイユボットその人の作品は5点しかない。
そのうちの一点が(今回は来ていないけれど)私の一番好きなカイユボット作品で
オルセーの「屋根の眺め(雪の印象)」だ。
これはモネの日の出の印象に対する「雪の印象」というわけだろうか。
そんな、これまで知名度の低かったカイユボットにもかかわらず
専門サイトがこの日本にある。

カイユボットは裕福な家庭に生まれて弟も含め、芸術家一家だった。
上の画に描かれた弟のマルシャルは音楽家で、ドビュッシーとも交流があったそうだ。
モネらの印象派の画家たちを支え続け、彼らから購入した作品は遺言により国に寄贈された。
これがのちにオルセー美術館設立のきっかけとなる、最大のコレクションになった。
印象派の画家を支えるだけでなく、自分も第二回印象派展から七回まで出品し続けている。
最初の出品作が今回は展覧されていないが、最高傑作の一つ「床の鉋かけ」である。
カイユボットの作品はもちろんブルジョアの趣味の域をはるかに超えていて
モネやピサロはこんなすごい作品を描くパトロンに支援されてどういう気持ちがしただろう。
しかもカイユボットは、モネに自作(「パリの通り、雨」の習作)を進呈している(本展出品)。
「困ったときにはこれを売りなさい」という意味ではないと思うけれど、
この気持ちも凡庸な私には図りがたいものがある。
モチーフや色彩がモダンであっても、
印象派ど真ん中の画家に比べ、かなり写実的であった彼の作品は
当時印象派とそれ以外のどちらの世界からもスルーされていたのかもしれない。



さて、川瀬巴水である。
私が観に行ってきた大田区立郷土博物館は、
川瀬がかつて(私も住んでいる)地元の馬込に住んでいたこともあって
かなり力こぶが入っていて、展示総数は千葉市美術館の倍以上となる500点だ。
博物館はこれまでも何度か回顧展を開いている。
図録だけ持っているが、2006年展覧会時のものには、
この展覧会のために新たに彫った「馬込の月」の版画が付録として付いている。
ただし、オリジナルよりサイズが小さい。
このため、古書価格は高い。
この作品のモチーフになった二本松町近くにかかっていた橋が、現在架け替え工事をしている。
その橋のたもとには、この作品のレリーフがはめ込まれていた。
しかし今となってはこの版画を思わせる風景はどこにもない。
川瀬巴水

大田区立郷土博物館では会期を3つに分け、現在中期に入っている。
最高傑作で最も売れた版画「雪の増上寺」(写真上左)は前期ですでに展示済みだ。
しかし少し地味目の場所を描いている今回の方が私には好みのものが多い。
名所風景を絵柄にして(版画という形で)印刷し、たくさん売るのが目的なわけだから、
絵柄が観光絵はがきのようなのは当然だ。
しかしときおり構図をとる、なんでもない街角や田舎の風景の美に
見る側の私たちはあらためて目を開かれる思いがする。
モチーフは水辺が多く、雪、夕暮れがまた多い。
私も大好きな風景である。
それがまたひいき目に見る理由であるかもしれない。

同時代の同じ新版画の巨匠であった吉田博は感覚がもっと西洋人に近く、
強固な骨格を持っていたと感じるけれど、
川瀬巴水はそれに対し、あくまで日本的ではかなげな風景をそのままとらえた。
下の「森ヶ﨑の月」はよく見ると、水面の千々に寄ったさざ波のほかに
もっと大きなうねりのような水面の揺らぎを描写している。
この観察がひと味違うリアルさを画面に与えている。
森ヶ﨑の月

今回の展覧会ではその版画の元になったスケッチや
下絵となる水彩画も展示されているのが貴重だ。
下の写真の左がスケッチ(はがき大)、右とその下が版画になったものだ。
川瀬巴水 画帖
塩原

川瀬巴水の作品総数は600点といわれているが、今回500点を三期に分けて展示する。
川瀬作品の8割を今回の展覧会で見ることができるわけだ。
毎回総入れ替えなので全作品を見るには最低3回足を運ばねばならないが
入場は無料(!)である。
図録も(今回は版画の付録はないけれど)オールカラーの304ページで2300円は安い。
2回も通えば図録は無料で配布されたと思えばいいだろう。
千葉市美術館の方も近ければ足を運びたいところだけれどちょっと遠い。
しかしうれしいことに、来年から再来年にかけて横浜と東京の日本橋を巡回する。
その時に出かけることにしよう。
ちなみにそちらは、270〜280点ほどが展示されるが、前期と後期の入れ替えは10点ほどである。
(こちらも図録は2000円と手頃だ)
念のため。。

※文章量が多くなりましたが、会期末が迫っているので一度にまとめてアップしました。
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COMMENT 2

Wed
2014.10.01
10:55

タブロウ #3h4yWL0g

URL

コメントありがとうございます。
滋賀で日本の版画を販売されていらっしゃるのですね。
HP拝見しましたが、どれも貴重で質の高い作品ですね。
私も実際に見てみたいものです。
今後ともどうぞ、よろしくお願いいたします。

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Sun
2014.09.28
21:04

 #

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