画家のめがね

 02, 2015 00:12
銀座奥野ビル(ペン、色鉛筆)

友人O氏は訪ねてくるときにはいつも、
撮りためたTV番組をダビングしたものを土産にやってくる。
ほとんどが映画だけれど、ドキュメンタリー番組なんかも混じっている。
先日のには、「SKETCHTRAVEL(スケッチトラベル)」という番組が入っていた。

この番組は、昨年のアカデミー賞の短編映画賞候補に
最後まで残ったアニメーション作品の監督、堤大介氏の行動を長きにわたり追っている。
しかしアカデミー賞レースには、ほとんど関係はない。
番組が追っているのはノミネートされた作品「ダム・キーパー」ではなく、
一冊のスケッチブックである。

番組は堤氏がまだ監督にもなっていない、9年前から始まっている。
(この時から映像で追っている制作側の仕事もまたすばらしい)
アイデアはこうだ。
著名なアーティストを直接訪ね、(好意で)スケッチをしてもらい、
次の作家を紹介してもらってスケッチをつないでゆく。
笑っていいともの「友だちの輪」と似たシステムと考えればわかりやすい。
私はスケッチブックに参加した日本人アーティストは皆、名前くらいは知っていたが、
海外の作家はフレデリック・バック (「木を植えた男」)以外、よく知らなかった。
しかしファンにとってはそうそうたる作家による夢のようなスケッチブックなのだということは
画面から強烈に伝わってくる。
当時はまだ無名に近かった堤氏はその間にPIXARに招かれて華々しい実績を残し、
スケッチブックに参加したことがきっかけとなってその友人と共に独立して映画を制作、
最初の監督作品がアカデミー賞にノミネートされるという、
まさに絵に書いたようなサクセスストーリーを歩んできた。
カリスマ的な作家の画によってページが埋まってゆくに従って、
スケッチブックはとんでもない重みが加わってゆく。
平行して、堤氏の映像作家としての華々しい実績とともにピークへ向かってゆくのが
こちらもまさに、映画のような感動を生んでいる。
71人のアーティストによって完成したそのスケッチブックは、
最終的にチャリティオークションにかけられるが、
それは旅の途中で決まったことであまり問題ではなく、番組が見せるのは
スケールの大きな遊びの一部始終である。

と、ここまで番組のことを書いてきたけれど、
私が印象に残ったのは、それら有名アーティストによって埋められたスケッチブックではなく、
その赤いスケッチブックを購入したパリで一番古い画材店、セヌリエの店内映像と
堤監督がいつも持ち歩いている小さな手帖に書き留めている、彼自身による美しいスケッチだ。
番組ではパリ滞在時のスケッチが二枚ほど紹介されていた。
著作権などもあるからここにアップするのは控えるけれど、夢のような色彩がすばらしい。


野見山暁治さんが若い日に見た夢のことを本に書いていた。
あぜ道の向こうで誰かがイーゼルを立てて写生をしている。
近寄ってみれば佐伯祐三である。
あの震えるような風景、飛び散るような色彩に野見山さんは引き込まれる。
佐伯は彼のかけていた大きなメガネをはずして貸してくれた。
すると、そのメガネをかけたとたん驚くことに、
風景が佐伯祐三の作品の風景として見えるのだった——。

そういう夢のメガネが、実は作家の目として実際にあるんじゃないだろうか。
上の私のスケッチは、銀座の古いビルを描いているけれど、
私のメガネにはガラスが入っていないようで素通しだ。
堤氏のスケッチはモニターとスケッチブックを問わず、彼のカラースクリプトそのものだ。
あのすすけたグレーのノートルダムが、そのままPIXARの世界になっている。
きっと彼だけのめがねを持っているに違いない、と思っている。

セヌリエ
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COMMENT 1

Fri
2015.04.03
17:06

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