いつか国道で 【旅と絵 その2】

 18, 2015 12:55
ひまわり畑と雲

夏、北海道内の鉄道の駅前は、宿代を浮かせるためにそこの軒先を借りようと
多くは若い旅行者たちが集まってくる。
私もその日は、北海道留萌の駅前にいた。
となりでシュラフを広げたのは、東京から来た織原君という大学生だった。
目的地と「歩く」という旅の方法が同じだったこともあるが、
少し話すとお互い〝ウマが合う〟ことがすぐにわかって話し込んだ。
やけに大きな荷物を持っている彼の足はすでにマメがいくつもがつぶれていて
旅をはじめてまだ2〜3日しかたっていないというのに、赤チンだらけの無惨な有様だった。
荷物を見せてもらったら、少年ジャンプが10冊もくくりつけてある。
これは重いんじゃないのか?と、彼に聞いてみたら、
出発に際して友だちから餞別にもらったものだから、捨てられないのだという。
「旅の途中で読め」と言って渡した友人の厚意は、
彼の性格につけ込んだイタズラではないのかと恨めしく思った。

翌朝、彼の朝食は水とカロリーメイトだった。
そんなんでハラと体力がもつのか?と聞くと、「安いから」という返事だった。
見かねて私のパンを彼と半分ずつ分けあうと、実にうまそうに食べるのだった。
食後、私の倍ほどもある荷物を背負うだけでつらそうにする彼と、町外れまで一緒に歩いた。
そこから先はそれぞれの歩く速さというか遅さというか、それに従って別々に歩き出した。
時々振り返って見ていたけれど、苦しげな彼の姿はやがて見えなくなった。

1時間も歩いただろうか。
後ろから来た一台のトラックが横で止まった。
ドライバーの人が窓から顔を出し、
「これを食うか」と差しだしたのは、一個のおにぎりだった。
早くも腹が減ってきたのでありがたくいただくと、ドライバーの人はこう話すのだった。
手前にも歩いているやつがいたから『乗っていくか』と声をかけると
歩いて旅しているからいいと言う。
「『じゃあこれを食べな』と握り飯をやったら、
『前に歩いているやつがいるから、もうひとつは彼に渡してください』
といって、自分は一つしか取らねえんだ」と言って笑うと、トラックはすぐに走り去った。
自分の昼飯を見ず知らずの我々にわけてくれるトラックの人の厚意には驚き、感謝したが、
おにぎりをことづけてくれた織原君にももう一度会いたいと思った。
道ばたの神社の縁石に腰掛けて海苔の香りを味わっていると
今朝駅でカロリーメイトをかじる彼を見たことが、ずっと以前のことのように思われた。

ふたたび歩き始めると、山道は下りになり、やがて北海道らしいだだっ広い風景に出た。
道の左には、奈良では見たこともない広いひまわり畑が広がっていた。
しばらく歩くと、珍しく歩きの旅行者とすれ違ったので、
その人に後ろを歩いているはずの織原君へ、さっきの握り飯の御礼のことづけをお願いした。

旅は東京へ来る半年ほど前のことで、
ケータイはまだ存在せず、コンビニもほとんど見かけない頃のことだ。
不便ということは、悪いことばかりではない。
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