多摩川の木立-1

 26, 2015 00:23
多摩川の木立-1
(オイルパステル)

9月のシルバーウィークは数日の間に秋がぐっと近づく。
昼間の日差しの強さは相変わらずだけれど、
夕方川原に吹く風は半袖では寒いくらいになった。
涼しくなってくると、逆に描くのは気持ちいい。
都心でこれほど気持ちよく描ける場所は、やはり他にはないけれど
ときどき遠くへ、映画の中で寅さんが旅するような遠くの町を描きに行きたくなる。
20代の時に日本を北から南まで歩いたから、
「あそこにはこんな町が」という心あたりはそこそこある。
でもあれから30年近くが経っている。
どこもすっかり変わってしまっているだろう。
記憶の中では鮮明だが、その間にはあの風景を消し去った時間が流れている。
持ち去られた時間というのはどこへ行くのだろう。

いつだったか、ここに書いたかも知れない。
アメリカで、90歳になる老人が子供の頃野球観戦に出かけた時になくした財布が
80年近くの時を経て彼の元に戻ってきた。
「少年の日の思い出が詰まった財布」だというから小銭入れではなくて、
札入れのようなものに野球選手のカードなんかが入っていたのだろう。
その大事な財布が手のなかに戻ってきたのを機に
少々ボケはじめていた老人の頭脳は変化が見えはじめた。
若い頃の記憶が徐々に戻り、頭もしゃっきりし始めたのである。
そして戻ってきた財布を手にしみじみと言うのだ。
「財布をなくしてから今まで膨大な時間が流れて、
 家族や友人とともに送った日々は私の宝物でした。
 私が過ごしたあの時間は一体どこへ行ってしまったんでしょうか。」
老人の口から思わず出た言葉が真を衝いている。
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