喫茶店アンヂェラスの画

 25, 2015 01:30
アンヂェラス

浅草雷門近くに昭和の老舗喫茶店「アンヂェラス」がある。
観光客を乗せて案内する人力車も、ここの前を通る時には必ずひと言紹介する有名店だ。
店をひと言で紹介するなら、「戦後すぐの1946年開業、
水出しコーヒーとケーキのおいしさで有名」、ということになるか。
しかし私の目当ては店内に掛かる画で、
森芳雄や原精一、猪熊弦一郎らの油彩画である。
手塚治虫や池波正太郎らが通ったことは喧伝されているけれど、
これらの画についてはネットでもあまり触れられていない。
私はこの店に飾られているうちの一枚の画を、以前から見てみたかった。

この日は招待券をもらった「シタマチ映画祭」に出かけたついでにこの店に入った。
浅草には何度も来ていながら地図がなくて店まで来られなかったが、
こんなに有名なら町の人に聞けばすぐにわかっただろう。
浅草付近の何カ所かで開催されている映画祭、私が観に行ったのは浅草公会堂だ。
映画上映を目的に作られてはいないので座席が小さく、
そのぶん壇上と観客席の一体感が強い。
参加作品の監督や俳優らとチンドン屋などが壇上に上がる、下町らしい良い映画祭だった。
うまい具合に、アンヂェラスは通りの同じ並びに位置していた。
昼間は観光客などでずいぶん混んでいたので、帰りに寄ってみることにした。

歴史を感じさせる店内は三階まであるが、ふだん三階はクローズされているようだ。
混んでいない時は席を自由に選ばせてくれるのがありがたい。
でも目的の画がどこに飾ってあるのか、今も飾ってあるのかさえもわからなかった。
たぶん一階だろうとあたりをつけて座った席が、その画を真正面に見れる場所だった。
そこで身を乗り出すように私が眺めていたのは、森芳雄の「テラスの女」である。
テラスの女

想像通りの8号ほどの大きさだ。
ほかにも静物や裸婦など、目に入ったものだけで森作品は6点ある。
「テラスの女」は森芳雄作品のなかで私がいちばん好きな画で、
今まで印刷物でしか見たことがなかった。
(日経ポケットライブラリーは古書で手軽に購入できるが、なぜか掲載されていない)
この画については洲之内徹が気まぐれ美術館の「絵を洗う」というエッセイで書き残している。
私もその文章を読んで知った作品なのだけれど、
今日実物をこんなに近くで見ることができて、感激もひとしおだ。
画の前の席には、画には目もくれずにスマホ画面に見入っているカップルが座っていた。
やがて彼らが席を立ったときに、ウエイトレスさんに頼んで席を移らせてもらった。
もうキャンバスの布目まで見える距離だ。
あまり熱心に見ているものだから、親切なウエイトレスさんは気にしてくれ、
店内に飾ってある他の画についても教えてくれた。
エル・グレコの陶板もあるとのことだったが(2階)、私にはこの画だけで十分で
けっきょくコーヒーの味も覚えておらず、この画だけを見て出てきたようなものだ。
有名なケーキも口にすることなく、
ラストオーダーの時間(19時)まで画を堪能させてもらった。
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