坂の上の映画館

 17, 2015 01:30
シネマライズ
(オイルパステル)

週末、街で号外が出た。
海外でのテロ事件が起こって東京で号外が出るのは、9.11以来じゃないだろうか。
美の都パリでの凶行の痛ましさに気持ちがふさがる。
現場近くでサッカー親善試合を観戦していた仏大統領のその後の発言が
9.11直後の当時のブッシュ大統領のそれに非常に似ていることがさらに気持ちを暗くする。
あのときブッシュ氏は逆上していたが、
世界中のリーダーたちはそのことを忘れるはずもなかろう。
なのに口をついて出たのは同じような言葉だった。
アメリカよりは成熟した国であるはずのフランスの国としての対応は、
アメリカとは違うものになると信じたい。
第二のISを生まないことを祈りたい。

渋谷へ出かけた。
久しぶりに歩いたセンター街ですれ違う外国人の多さにたじろぐ。
画材を背に、もうすぐ閉館になる渋谷のミニシアター、シネマ・ライズへ向かった。
「無くなるから描きにいく」、というのは好きではないけれど、
この映画館には思い出が多く、閉館を惜しむ人だかりができる前に描いておきたかった。
街ゆく人やそこに灯る光を描くのは面白いけれど、人が多すぎるのもやっかいだ。
どこにでも腰を下ろせるわけでもない。
やがて、増え続ける人の波に視界を完全に奪われた。

シネマライズが渋谷の真ん中、スペイン坂上にオープンしたのは1986年。
私の東京生活と軌を一にしている。
館名の「ライズ」はオーナーの「頼(らい)氏」に由来しているが、
同時に「坂を上がった」=ライズ(rise)ともかけているのだろうか。
厚い布地のカーテンをめくる行為をイメージしたような、
バブル期らしい建築デザインは大げさで芝居じみているけれども、
清潔さばかりが目につく現代のデザインよりは人の気配を感じる。

ここに来ると上京したばかりの頃を思い出す。
マネーに狂乱し、古い町がブルドーザーで整地されるようにどんどん消えていった。
時代の勢いは確かにあったけれど、どうしようもないほど田舎っぽく子供じみていた。
ばかな時代ではあったけれど、企業や社会は今よりずっと人に優しく、
若い人はなんでもやってみなはれのいい時代だった。
ここで見た最も印象に残っている映画は、林海象監督の「二十世紀少年読本」である。
今もこの作品は大好きで、この作品が好きな故に三上博史と佐野史郎もまた好きな役者だ。
最近(といっても2年前)では友人のボリウッドマンと見た「オーム・シャンティ・オーム」。
映画館の地下には当時「シアンズB」というかっこいいBarがあり、
ここでの甘くはあるけれど、あまりかっこよくない思い出もまた、じんわりよみがえってくる。

今、映画はシネコンで見る時代だという。
客の入る作品しか上映しないシネコンは、ミニシアターの替わりにはならない。
減り続ける本屋、CDショップなどの個人商店、そして映画館。
増えるのはそれらを一気に飲み込む大規模店舗。
バブルがはじけて世を覆った自由競争の嵐は、
けっきょく大きな企業が儲けることに負担となる規制を排除し続け、
Winner Takes All.(一人の勝者が全てを奪う)の社会を作った。
アメリカから来た概念なのであえて英語で書く。
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