下町ロケット

 23, 2015 22:25
桂川精螺製作所-01(コンテ)

私の住む大田区は中小企業、中でも小さな工場の町として知られている。
その数は4000を超え、モチーフにする風景を探しに多摩川付近を走っていると、
一軒家のような町工場がひしめいているのが見える。
関西でいえば東大阪と似た土地柄だ。
川向こうの川崎には大手製造の巨大工場が林立するのとは対照的な風景である。
そちらにも何度か自転車で出かけてみたが、埋め立て地へと運河を渡ったとたん、
ビニールのような臭気につつまれ、たまらずに引き返してきた。
大田区の零細ひしめく工場町は機械油の臭いこそすれ、
まだまだ人と生活の香りがする。
20歳頃、大阪は神崎川のやはり町工場、鉄工所でバイトをしたことがあり、
機械油の香りも嫌いではない。もともと機械は好きな方だ。
その町工場のひとつを画にしたいといつも思っているのだけれど、
なかなか場所が決まず、そのまま河原へ出て腰を下ろすのが常だ。
週末はどこも操業を休んでいるということもある。
そのなかでも多摩川大橋の近くにある工場がいつも気になっていて、
多摩川沿いの遠景としては何度か描いたこともある。
このあたりでは例外的に大きな工場で、
社名をネオンサインで掲げた鉄塔、ノコギリ屋根、白い壁に真四角の窓と、
クラシックな工場の特徴を備えている。
ところが工場の周囲を回ってみても、それらを画にする構図がどうにもきまらない。
工場の入り口正面から鉄塔が見えるのが最もいい角度なのだけれど、
ノコギリ屋根が見えず、加えて建築パースのような構図になってしまう。
ところで、鉄塔のネオンサインの「桂川精螺」の読み方がわからず調べてみたら、
「カツラガワセイラ」と読むのだそうだ。
主要製品の精密ねじ部品の製造技術には並々ならぬ自信を持っている会社で、
HPのメッセージにはその熱い思いがあふれている。
とりわけ印象に残ったのが、
創業以来苦しい時もあったが一度も従業員をリストラしていない、という言葉だ。
まるで小説「下町ロケット」のような工場だなと思って読んだ。

滅多にドラマを見ないのだけれど、
この秋始まったTVドラマの「下町ロケット」は欠かさず見ている。
最初、多摩川の土手がロケ場所になっていたのがうれしくて見ていたが、
ドラマのメイン舞台になっている佃製作所が俯瞰になって映った時、「あっ」と声を上げた。
鉄塔の社名はCGで書き換えられているが、あの多摩川沿いの工場にまちがいない。
やや奥にもうひとつある横組みのネオンサインをよく見れば、
画像加工されていない「桂川精螺」の文字がたしかに読める。
後日朝のTV番組でここを取材していたのを見た。
たまたまこの製作所の社長が原作に感動して、社員に本を配っていたのだそうだ。
ある日、原作のドラマ化にあたって、メイン舞台になる佃製作所として、
貴社をロケ場所として協力のお願いができないか、という依頼が舞い込んできたのは、
それこそドラマのような話だ。
もちろん二つ返事で快諾したとのことで、
撮影は外観だけでなく、社内も含めての全面協力となった。
ドラマのセットにずいぶんリアリティが感じられるとしたら、
それは血の通った現役の工場で撮影されているせいなのである。

ということで、今週末はともかくここを一度描いてみようと出かけた。
以前はなかったことだけれど、工場の入り口付近では現在、記念撮影する人が絶えない。
あらためて眺めてみると、社名を冠した鉄塔は、ロケットのように見えるから不思議だ。
HPでは人材不足も訴えていたこの工場に、
ドラマをきっかけに若いエンジニア希望者が集まることを願わずにいられない。
大田区にある4000の町工場は、ピークだった20年前から半減している。
でたらめな規制緩和の結果である。
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Tag:風景画 Landscape Paysage

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