屋根

 22, 2016 01:34
屋根(ペン、色鉛筆)

自転車で5、6分のところに廃団地がある。
一棟2〜4世帯、2階建ての建物が5棟だけ建っている。
都心にあって意外なほど小さなその団地が、
住人が退去してもう長い間そのままになっている。
これまで何度も足を運んだけれど、この日はじめてスケッチブックを開いた。
手前の道路が一段高くなっていて、
風化が進む屋根から突き出ている煙突のようなものが目の前にあり、
それ越しに羽田から飛び立つ飛行機の青い機影が見える。
手前の屋根は元の住人が建て増した部分らしく、
左に見えている2階建ての建屋が母屋というか、団地本体になる。
屋根から突き出ているのは「煙」ではなく、
トイレなどの「臭い」を逃がすための臭突といわれるものだろう。
だとすると屋根の下は便所ということになるが、
団地に元々トイレが付いていなかったとは考えにくい。
屋根の下が何に使われていたのか、立ち入り禁止となっている今はわからない。

最初にここへやってきた時には、各戸のドアに「閉鎖」と書かれた貼り紙がしてあった。
立ち退きになってそれほど時間がたっていなかったと思われ、
5年ほど前まではまだここにも子供たちやその家族の声が響いていたに違いない。
東京にありながら急斜面の棚田のような土地には、
小さな集落のようなコミュニティができていたのだろう。
よそへ散っていった住人は消えてしまったわけではないだろうが、
今目の前の廃屋からは、かつてここに誰か住んでいたことすら想像しにくい。
ここが公団住宅ではなく社宅だったなら、「閉鎖」の貼り紙の意味もまた違ってくる。
そういう意味のない想像が、止めどなく浮かんでくる。

役目を終えて使われなくなり、放置されてなおそこにあり続けているもの。
人の存在がなくなり、用途を失うと、人工の構造物は自然へと向かう。
一つの廃屋が一本の樹木のような存在感を持ち始める。
デザインから表情へ、静物は肖像になる。
人気がなくなった建屋と褪せたトタンの屋根越しに見える町は、
人が生きていて、建物はまだその道具である。
スポンサーサイト

Tag:Landscape Paysage 風景画

COMMENT 0

WHAT'S NEW?