藤本義一と今東光(その2)

 15, 2016 01:32
藤本義一_4

その後、僕が「みみずく説法」「悪名」なんかを脚色したとき、
(映画)会社で原作料を今先生のところへ持って行かされたんですが、
(昭和)36年当時、50万円の札束を、こう新聞紙に包んで行くんです。
ひとりでですよ。
「落とすなよ」て会社で言われて、
「盗られんやろか、落とさんようにせな」とおっかなびっくり八尾駅まで来て、
駅の便所へ入ったんです。
女子便所、つまり大便所のほうに、その中に入ってその札束をバラッとやると
札の持つ、あの金属質の臭いがするんですな。
「ああ、これがええな、この臭い」
当時は千円札がいちばん高額紙幣ですから、これぐらいの厚さがあるんですよ
(親指と人差し指をひろげて)。
「これ持って逃げたらどないなるやろ」とか(笑)。
そして天台院へ行って、テーブル越しにその札束を渡すと、
バサッと、身体の横へ置くんですな。
これがやりたかった。おれもやりたいなと思ってましたね。
その時も「どこか行ってきたか」て聞かれて
「はあ、マニラへ行ってきました」
「なに、マニラ?!あそこは大東亜共栄圏でまだ外国とは言えん。それではダメだ」
それからアフリカへも行きました。昭和47年でしたかな。
行く前に今先生にお会いしたんですが、
「これからアフリカへ行ってきます」
予防接種を7本打って、左腕が丸太みたいに腫れ上がって、
そう言うと、
「ナニ!お前本当に行くのか」
「はい、これから行ってきます」
「そうか、帰ってきたらオレにしっかり話すんだぞ」(笑)

先生は動物と人間の違いを見てこいと言われたんですが、
アフリカにイボイノシシというのがいる。
イボに見えるのが、これが実はダニでね。
それが大草原をズァーッと走ってくる。
車が走るとその後を走ってついてくるんですな。
これも壮観ですが、それと地平線、丸いんですよ。これが。
日本なんかだとこれくらいの地平線が見えるくらい。
ところがアフリカはこう丸くなっている。
そこへ夕陽、こんなにでっかい夕陽が、真っ赤になって沈んでいく。
これを見たとき、死んでもええなと思った。
それを帰ってきて今先生に、
こんな、こんな、こんな夕陽が、こーんな地平線にズァーッと、
と言ってるうちに、それを聞いてた今先生が
「あんた、そらちょっと医者に診てもらえ」
そうしている間にも今先生はメモしてなさる。
それをまた作品に、自分がまるで観てきたみたいに書かれるんで、
「先生、そらかないませんな。行ってきたのは僕ですよ」と言うと、
先生はテーブルの下から、金をこうして
「ホレ、取材費」って、くれるんですな。

それからある日、当時参議院議員でいらっしゃって、
空港でお会いしたその時、顔が真っ青で、
「あのー」と言ったきり飛行機の音がグォーッとするまで何もしゃべらない。
「え、なんですか」って聞き返したあと言った。
「先生、ガンですってね」
すると、「ああ、ガンだよ」
何日か前に、石原慎太郎が今先生に言ったらしい。「先生、ガンですってね」
その時先生はガンだということを知らなかったらしいんですが、先生はすぐ
「ああ、オレはガンだよ」と言われたそうです。
そして僕に言うんですな。
「おい、オレはこのガンをとったらレバーみたいにして食ってやるんだ、三杯酢で。」
つられて僕も
「先生、やっぱり食うんなら二杯酢のほうがうまいですよ」って言うと
「オマエ、面白いこと言うね」って笑っておられました。
そう言っててもう亡くなられましたが、
あの人、本当に食べたらしいですな、自分の切り取ったガンを。

以下、さらに続く。
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