藤本義一と今東光(その3)

 17, 2016 00:26
先生の言葉で忘れられんのが、「まがいものにごまかされるな」
先生は晩年に、千葉(佐倉)の家じゃ嫌だと言って、
東京にマンションの一室を借りて住んでおられたんですが、
その部屋に易経の本が360巻、こうズラッと置いてある。
今先生はあれだけ自由奔放に生きてこられながら、ものすごい勉強をしておられた。
僕は先生というのは、大胆にして細心という所があったと思う。
易経というのは、秦の始皇帝がかかえた三千人の易者が、秒、分刻みで
その時、その時を占い、それを残したのが易経として残っているものです。
それが360巻になっていて、今先生は「オレは今、五巻まで読んだ。
あと355巻残して死んでいくことになるんだ」と言われ、
「易経に比べたら、四柱推命だの、手相だの人相だの血液型など、
 みんなマガイモノだ。ニセ物だ!」

またあるとき、
「血液型がどうして違っているか、それによってどう違ってくるのか、
 それがわかればノーベル賞が10個は来るんだ」
「血液型がAだけの世界になっても、Bだけの世界になってもOだけの世界になっても、
 人間は戦争して殺し合ってしまうが、A、B 、AB、O、
 これがそろっているから世界人類が滅ばず、
 ひとつの輪になっていることだけは間違いない」とも言っておられた。
よく血液型が利用されるのは、ひとの悪口を言うときです。
「あの人。エゴイストできっとB型よ」とか言っている人が
ひとの悪口を言うA型だと気がついていない。
「自分はA型で彼女がB型だからうまくいかない」
とか言うのが、最低の人間なんだと知っていただきたい。

皆さんはここにいる人も今、頭ン中で
「腹減ったな」
「藤本、あいつ女房とうまくいっとんやろか」とか、
「どんなふうにセックスしとるんやろか」とか考えてる人もいるに違いない。
今笑ったひとにきっといるはずやな。(笑)
人間の脳っていうのは52のブロックに分かれていて、
140億の細胞がそれぞれに分配されているんです。
その細胞の中が動きやすい状態にある。
それがバカになると、マーボードーフのようになってしまう。
脳のために一番よくないのは頭を温めることで、一番悪いのがサウナなんですな。
一度入ると根性みたいにあの暑いところでがんばるわけですが、
あれをやっていると、脳がマーボードーフになってくる。
ゴルフ帰りにサウナに入ってるが、あれは老人性痴呆症になるんですよ。
サウナから出たときにクラッとなるやつ、あれはあとで必ず後遺症が出る。

今先生は動物と人間の違いを見ろと言われたんですが、単純な動物ほど敏捷でね。
ミミズやムカデなんか、こう、光や音を立てただけでもサーッと動く。
ムカデなんか、切っても動いているのは、背中に脳があるからなんですよ
人間あんなに足があったらたいへんですねぇ。
3本目の足から110本目の足に水虫がうつったとか。(笑)
ムカデの足、最高何本あると思いますか。
これは北海道のムカデで、176足(注:136足だったか記憶あやふや)もあるのがいる。

みなさんも脳はくれぐれも温めないように。
そして空腹感と同じように空頭感を持ってほしい。
うちに近所の学生が来たりするんですが、彼らが来るのは酒を飲みに来るんですな。
ニッカやサントリーを出すんですが、ビンはスコッチのに入れて(笑)
「そうかそうか」って注いで、
「ハァー、スコッチですか、うまいもんですねぇ」(笑)
いいですか、こいつらは文学部なんです。
「君ら、どんな本読んでるンや」
「サマセット・モームなんかです」「へぇ、翻訳で」「いや、原文です」
「ほほー、どんな作品?」「月と六ペンス、それに・・・」
「どのくらい読んだの」と聞くと「このくらい」て指を広げて見せるんですな。
それが本の厚さと思って感心していると、
本の厚さでなく行数なんですよ、学校の教材に出てくる。
それで「君ら、いつ本を読むんや」て聞くと、
「ヒマになったら読みます」て言うんで
「君らヒマになったらめし食うんか」て聞くと、
「そうですねぇ、ヒマになったらねぇ」とまた考えるんですな。
もうバカですよ。
「ヒマになったらメシ食うんか」て皮肉言うとるのに、そいつら考えとるんですな。
60歳過ぎてからヒマになって、「漱石の『それから』、どうやった?」って、
どうしようもないですな。
皆さんも空腹感と同じく空頭感を持って、
これから家へ帰ってからでも本を読んでください。



これまで人生で経験してこられたり吸収した知識の海を、
縦横無尽に行き来した濃密な20分、
あっという間の時間だった。
そのあと、高座から降りた作家は来場者の中へ入っていった。
義一さんは「これから皆さんに上物のマリファナを配ります」と言って
インド土産の細巻きの葉たばこを一本ずつ配り、新野新さんが火をつけて回っている。
一番前のおっちゃんが「おお、これはうまい!」と煙をぷっかりはき出し、
「これもやらせでんな」とニッコリ振り返った。
義一さんはこうも付け加えた。
「人生のうち、ちょっと身体が空いたなら、きっとアフリカへ行ってみなさい」

30年後、アフリカはもちろんのこと、世界全体が紛争地帯化してしまっている。
「こんな夕陽が、こーんな地平線にズァーッと」沈むのを見るのは現在、
行くだけでもある意味命がけである。
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