「画家たちの 二十歳の原点」~平塚市美術館~

 16, 2011 14:23
画家たちの二十歳の原点

平塚市美術館でやっている「画家たちの 二十歳の原点」を見に行ってきた。
日本の洋画(油彩画)黎明期から現代に至る巨匠、第一線で活躍する画家の
二十歳頃に描いた油彩画作品ばかりを集めた、ちょっと変わった展覧会だ。
実際はそれぞれ24歳ごろの作品が多かった。
それまで浮世絵や日本画など、フラットで遠近法無しの絵を文化としてきた日本が
あっという間に西洋の絵の具と技法を自分のものにした勉強熱心で器用な点は
やはり日本人の真骨頂とも言えるだろう。
・・・・
それにしても平塚は遠い。
片道都内から一時間以上かかり、駅からさらに私の足で20分ほどかかるだけでなく。
交通費も往復2千円以上かかる。
昨年の長谷川潾二郎以来1年ぶりだったが、今回は財布厳しく図録まで買えなかった。
まあ、通常でもめったに図録までは買わないのだけれども。

ちょっと珍しかったのが佐藤哲三作品で、
前からぜひ見たかったが、ここで見られるとは思っていなかった。
佐藤哲三

初期作品の「赤帽平山氏」はゴッホを思わせるタッチで、
梅原龍三郎がその作品に惚れ込み、彼を娘婿にしようとさえした。
最も惚れ込んだ作品「機関車」のオリジナルは現在行方不明だが、
この「赤帽平山氏」も佐藤第一の傑作だろう。
佐藤亡き後、彼の奥さんは不思議にも、自分との結婚以前の作品を認めようとしないばかりか
展示することさえ難色を示し続けたそうで、
画家を支えた身内が、よき理解者だとは限らないことを示すエピソードだ。

中村彝の自画像もよかった。
二点出品されていたが、美術館HPやポスターではいい方
(いわゆる「苦虫の自画像」)を写真掲載していない。
中村彝_自画像
中村彝の自画像はどれもすばらしいが、実はこの自画像が最も初期に描かれたものだと
洲之内徹は「おいてけぼり」で書いている。
これはまぎれもない、画家が描き始めて2年目の二十歳の作品だ。

以上の二点はどちらも宮城県美術館の洲之内コレクションからだ。

関根正二もいい作品が来ている。
middle_1242935227.jpg

「三星」は20歳の作品、21歳で夭折した関根にとっては晩年にあたる。
この年齢にして信じられないほどの完成度と奥行きがある。
恥ずかしい話しだけれど、そのことを実感できたのは最近だ。
東京のブリヂストン美術館にあるほうの「子供」なども実物を前にすると、立ちすくんでしまう。
当時画家を目指していた若き日の作家今東光が自伝に、その頃の貴重な関根の姿を書き残している。
極貧の中で描いていたため、高価なバーミリオンが買えず、
友人の今東光や、下手な牛ばかり描いていた上野山清貢のパレットからそぎ取って描いていた。
バーミリオンを使う前の関根の作品は、以後の作品と並べるとやはり物足りなさがある。
安価な黒っぽい絵の具ばかり使わざるをえず、「絵は黒だけで描ける」とうそぶいていた。
プライドが高く、友人に見栄を張って小間使いとして紹介していた男は実は父親だったという。

夭折の画家について、「もしその後を生きていたなら」と嘆く声もある。
しかし夭折の画家にとっては没するまでの作品がすでにピークに達しており
だからこそ、歴史に名を残している。
「あらゆる画家は20代までにピークを迎え、以後はそのバリエーションである」と誰かが言った。
それも洲之内徹だったかもしれない。
ポスターにも出ている作品「姉弟」は、田村泰次郎から現代画廊を任されていた頃の
画廊でくつろぐ洲之内徹の写真の後ろに写っていた。
もし経営を引き継いだ後で彼がオーナーだったら、
おそらくこれも洲之内コレクションに入っていただろう。
恐るべし、洲之内コレクション。


戦前から戦後、現代に移ってくると、作品は雄弁になるような気がする。
軽い感じがするのは色のせいだけではないだろう。
タッチだけを見れば、マンガやアニメの影響があるかもしれない。
しかし本質的なことを言えば、上手く言い表せないが、
先に技術があって、描く対象や描きたいテーマをあとから用意している気がする。
「入学した大学の教授に「入る大学を間違えたね」と言われて、
 その教授よりは死ぬほど日本の美術について考えているけどね」
と作品のキャプションにあったが、
「日本の美術」について考え抜いたらこういう作品なるのだろうか。
私にはわからない。

洲之内徹の「人魚を見た人」にこういう文章がある。

(大正から昭和になろうかという頃の画家のこと)・・・その頃の人達には一様に、
何か怖い物の目で絶えず自分が見られているという意識があるような気が私はした。
だからこの人たちの仕事はどんなに大胆で奔放であっても、一面謙虚である。
そこから生まれる節度と品位と、そして永遠の若さがある。
その頃の人達にあったそれが今はない。

現代の作家で、石田徹也の作品のみが光彩を放っていた。
石田徹也

彼は惜しいことにすでに事故によって亡くなっている。
画面の色は明るめだが、描かれた世界は恐ろしく暗い。
しかし今の若い世代のむき身の姿が描かれていて、
しかもどの絵も泣いているように見える。
石田が今も生きていたら・・・その描く世界はいまだ変わらず暗くつらいままだったろう。
若者をはじめ、現役世代すべてにとって、つらい時代は続いている。
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Tag:展覧会 油彩

COMMENT 7

Fri
2011.05.20
22:49

ぱんどる #-

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No title

冗談でしょ!私なんかよりタブロウさんの文は良いと思います。
ちゃんと 紹介する人がその作家の何処が好き、感想、目的が しっかりブレが無く
書かれています。
私の文は、わかっちゃいるけど 直ぐに他の言いたいことに暴走して
結果なんのこっちゃわからなくなってしまうところが 本題をボケさせてしまっています。

読者をその世界へ導いてこそ紹介ですから
作家である私でさえ文で引き込まれてしまいました。
どんどん新人作家の紹介読みたいものです。

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Thu
2011.05.19
23:34

タブロウ #3h4yWL0g

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No title

「文章もうまいなぁ」と日頃感心しているぱんどるさんから褒めていただけて、
とてもうれしいです。
私は多くのことを知らないのですが、ピンポイントで好きな画家がいて
そこに入れ込んでしまうんです。
本当に尊敬していて、人類の宝だと思っているんですね。
自分が好きになれる作家って、それほど多くはないですし。
(でもそれ以外の画家については、恥ずかしくなるくらい、無知です)
これからも少しずつですが、私の好きな画家を紹介しますね。

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Thu
2011.05.19
19:03

ぱんどる #-

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No title

タブロウさんの紹介がうまいな~~^^
なにか自分の好きな作家を集めた本でも出されたら
売れるんじゃないかな^^
ついつい、文章に引き込まれてその作家を見たくなってしまいます。
石田徹也いいっすね!
確かに暴力的ともとれる悲しさがあります。

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Wed
2011.05.18
20:17

タブロウ #3h4yWL0g

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No title

hananoiroさん、こんばんは。
hananoiroさん、立派な作品描いていらっしゃるじゃないですか。
作品、モチーフに対して誠実であれば、私はそれでいいと思います。
思想や主義主張が安易に入ってきた作品は、多くが失敗していると思います。
(ピカソはゲルニカを描いていますが、ここに「怒り」はあっても「思想」はどうでしょう)
もちろん、それを表現するのは自由ですけれども。。

石田徹也もいろいろ解釈はあると思いますが、
彼は自分が日頃感じていることを誠実に表現しただけで、
思想や社会問題を訴えようとしたのではないだろう、と思うんです。
私たちがそこに何を見ても自由、と思うんですが、
どうでしょうね。私の意見です。

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Wed
2011.05.18
15:47

hananoiro #-

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No title

こんにちは☆
私も昨日のBS放送で見ました!
おもしろい企画でしたね。
この展覧会で取り上げられていた作家たちは若くても
それぞれに思想をもって、制作をされていて
手だけ動かしていればいい。。みたいな私は。。恥ずかしい気持ちになりました。。
その後、録画していた野田弘志をみてまた感激しました!

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Wed
2011.05.18
11:31

タブロウ #3h4yWL0g

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No title

アイビーさん、こんにちは。
野十郎はすばらしいですが、若い頃のはちょっと力が入りすぎているかもしれません。
後年の静物、風景画、どれもすばらしいですが、
私は、いつか「からすうり」の実物を見たいと思っています。
これは美しい作品ですね。

石田徹也の作品は大作はすべてアクリルです。
狭いアパートでの制作、ということもあったでしょうけれども
彼らや我々の世代、最初にリキテックスを手に取る、というのは自然な選択だと思います。
そして、水で溶くアクリル絵の具はその作品にふさわしい画材だったと思います。
おだやかな水彩のせいで、よけいに泣いているように見える気がするんです。

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Wed
2011.05.18
07:46

アイビー #2toZYr9Q

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No title

昨日BSでこの展覧会が紹介されている番組を見て
行きたいなあと思っていました。行けませんが(^^;)

高島野十郎などは鬼気迫るものがありますよね。
今度福岡で展覧会があるようなので観に行くつもりです。

この石田徹也さん・・・
名前だけ聞いたことがある程度だったんですけど
一度観たら吸い込まれるというか。
平坦な描写(アクリルっぽい?)なのに、なんかこう哀愁漂う、
切ない気持ちになっていきます。
亡くなったことが惜しいですね。

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